経営において人の「情」を重視することは、最も合理的であり、理にかなった成功への近道だ。その理由は2つある。1つめは、経営者がどんなに優秀であっても、1人では何も成し遂げられないからだ。会社は多くの役割で構成されているが、経営者はその中の一部を担っているにすぎない。社員たちの心に働きかけ、充足し、発奮させることなしに、挑戦や創造は起こりえない。

 2つめは、人の「情」に働きかけることによって、より多くの能力を引き出すことができるからだ。あなたが「能力が低い」と評している人は、ただ単に「意欲があらわれていない」だけかもしれない。「やりがいの創出」と「承認欲求の充足」の2つの条件を満たすことができれば、その人の意欲を引き出せる可能性がある。

「熱」「理」「情」の3つの要素を満たせば、「生きている会社」をつくることができ、「利」(利益)が生まれる。そして、「利」よりはるかに重要な「魂」(spirit)、つまり経営を支える「精神」もまた生まれるのだ。「利」は使えば消えてしまうが、「魂」は意志さえあれば永久に残すことができる。魂こそ、会社が継承すべき資産なのだ。

◆「生きている会社」をつくるための10の基本原則
◇「言える化」を大切にする

 どうすれば「生きている会社」をつくることができるのか。本書で提案される「実践すべき『10の基本原則』」の中から3つを紹介する。

「言える化」とは、年齢や経験、役職、身分、性別などにかかわらず、社員一人ひとりが自分の意見やアイデアを自由闊達に発言できることをいう。会社では、上下関係や経験値の違いがあるため、「言えない化」「言わない化」がむしろ自然だろう。だがそんな環境では、社員たちが日々の仕事を通じて気づいたことやアイデアが埋もれたままになってしまう。「言える化」が実現すれば、そうした現場の知恵が埋もれることなく、経営に活かされるようになる。

「言える化」を定着させるためには、「聴ける化」が必須だ。つまり、役員層や管理職がフラットでオープンな気持ちをもち、部下たちの意見に耳を傾けて、よいと思う意見やアイデアはただちに実行に移すことだ。

 聴ける化と言える化が循環すれば、「生命体」としての会社は輝きはじめる。

◇「必死のコミュニケーション」に努める

 会社の目的や目標を打ち出しても、それが社員たちの心に届き、共感と「熱」を生み出さなければ価値はない。経営において重要なのは、単なる「理念」「ビジョン」「計画」「人」ではなく、「共有された理念」「共有されたビジョン」「合意された計画」「触発された人」なのだ。

 しかし経営者からすれば「共有できている」と思い込んでいる理念やビジョンは、現実には決して共有されておらず、浸透していないものだ。これは経営における最大のリスクのひとつだといえる。

「共有された」「合意された」「触発された」状況をつくるには、密なコミュニケーションに努めるしか方法はない。「伝える」と「伝わる」はまったくの別物である。その違いを常に認識したうえで、経営者自ら人の意志を伝え、人の声に耳を傾け、議論を進めながら物事を進める姿を見せよう。コミュニケーションの崩壊は、経営にとって命取りだと心得る必要がある。