ドーナツ化現象は昔の話
人は都心に接近し続けている
1980年代のバブル期には、「ドーナツ化現象」と呼ばれる人口の外周化傾向が見られた。地価が高騰し、都心近くではとても家を持つことはできず、郊外に引っ越すことを余儀なくされたのだ。しかし、地価の下落と不動産価格のデフレ傾向で、ドーナツ化現象は過去のものとなった。
その背景として世帯人員の減少が挙げられる。世帯人員はほぼ一直線に減少の一途を辿っており、50年前の2.86人から今では1.92人になっている。ファミリーから単身や2人世帯に主役が交代し、その中で最も重視されたのは通勤アクセスの良さだ。
◆図表1:東京都の世帯人員の推移
出典:東京都住民基本台帳人口 拡大画像表示
東日本大震災の際も、鉄道の間引き運転から通勤難民が大量に発生した。これに最も早く対応したのが単身世帯だ。実はその後の1年で、都心寄りに引っ越す人が1万人ほど純増した。ハーバード大学の研究プロジェクトの報告書『Buying time promotes happiness』によると、時間を買うと幸福感が上がるという結果が出ている。職場に近づき、通勤時間の圧縮と通勤ラッシュから開放されることで、満足度の高い引越しになったということだ。
高齢世帯の引越しも、アクセスのいいところへシフトしている。足腰が弱くなった者にとって、坂の上や遠い駅は敬遠したいものとなり、引越し先は駅近や都心寄りという傾向が明確に出ている。以前は、坂の上の高級住宅地が「住宅すごろく」の上がりだと思われていたが、今では駅近のタワーマンションでエレベータ移動の方が楽という認識になっている。