「社会を恨んでいる」という言葉とともに、たまたま新幹線で近くに乗り合わせただけの人たちを刃物で切りつけるという凶行に及んだ青年。彼は、過去の青少年凶悪犯罪の加害者たちと、いくつもの共通点を持っている。(ジャーナリスト 草薙厚子)

知的には優秀でも
社会に適応するのが難しい

新幹線で殺傷事件が起きた発達障害がそのまま犯罪に結びつくなどということは断じてない。ただ、適切な治療や支援が行われずに放置されて孤立したあげくに凶行に及ぶ、という青少年犯罪の事例は幾つもある(写真はイメージです)

 6月9日に発生した、東京発新大阪行きの東海道新幹線「のぞみ265号」車内での無差別乗客殺傷事件。女性2人が刃物で襲われ、凶行を阻止しようとした会社員・梅田耕太郎さん(38)が十数ヵ所を切りつけられて亡くなった。

 逮捕されたのは小島一朗容疑者(22)で、神奈川県警の調べに対して、「社会を恨んでいる。人を殺す願望は昔からあった」と供述しているという。また、犯人が「過去、自閉症と診断されていた」という報道がなされ、事実を掲載したマスコミ媒体に対して批判が上がった。

 もちろん、発達障害がそのまま犯罪につながる、という誤解が蔓延するのはもってのほかだ。しかし、犯人の障害をことさらに伏せ、過度に報道を自粛することが、今後の類似事件の発生防止につながるとは思えない。実はこの事件は、今まで筆者が取材してきた過去の凶悪事件と、いくつもの共通点が見られる。

 筆者が上梓した『となりの少年少女A』(河出書房新社)では、神戸連続児童殺傷事件や佐世保小6女児殺害事件など、世間を震撼させたいくつかの凶悪な青少年事件を取り上げた。これらの事件では、小島容疑者と同様に加害者たちがいずれも「自閉症スペクトラム障害(発達障害の一種)」であるというハンディキャップがあった。

 発達障害は脳機能の障害で、親の育て方やしつけが原因ではない。また、精神疾患のように、ある年齢で発病して症状が姿を現すという「病気」でもない。

「自閉症スペクトラム障害」は、「社会的コミュケーションの障害」「社会性の障害」「限定された興味」という3つの特性がある。

 小島容疑者も、拙著で取り上げたほかの事件の加害者も、知的には遅れがないのに社会に適応できず、衝動的で、時には暴力的になったりしていた。

 誤解がないように再度強調しておきたいが、発達障害だから犯罪を起こすわけではない。前述した、主に3つの障害特性(これを「一次障害」と呼ぶ)がある本人はしばしば、家庭でも、学校など社会でも適応することが難しいことがある。そこで周囲の理解や支援が不十分だと、人間関係の問題や不注意などのミスが続き、「生きる希望がない」などと自分自身に対し否定的になったり、気分が落ち込んだり、不眠症といった抑うつ状態やうつ病を合併することがある。

 また、強いストレスから摂食障害になったり、引きこもりになってしまうこともある。これらを「二次障害」と呼ぶ。こうした二次障害は、本人の努力だけではどうしようもない。もし、このような症状が現れたら、できるだけ早く専門家に相談しなければならない。

 なぜなら、こうした凶悪犯罪は、この「二次障害」によるものも少なくないと考えられているからだ。