耳触りのいい話は必ず裏をとる

 何でそういうことになってしまうのかというと、この社長はお話を聞くだけで信じてしまい、裏どりをしないからだ。

 新しい技術が持ち込まれたら、それに詳しい人に聞いてみるとか、自分で調べてみるとかして、本当にモノになりそうか調べてみればいいのに、すぐに信じてしまうのである。

 これは、資金繰りに困っている会社の社長が、いまだにM資金(戦後GHQが日本で接収した財産をもとに運用していると噂される秘密の資金)の話を信じて、金融ブローカーにお金を払ってしまうのと似ている。

 読者の皆さんは「そんな馬鹿な」とお思いだろうが、本当にこういう話は少なくないのだ。 多くの会社では、耳触りのいいストーリーを聞いて、そこで思考が止まってしまう。

 というよりも、もともと聞きたいことがそういうストーリーだから、それを聞くと、「やっぱり、思った通りじゃないか」ということになり、思考を止めてしまうのだ。

 事実を調べて、裏をとるということをしないのである。

 こうして、他人の噂、お話を信じて投じたお金は泡と消える。お話に乗るのではなく事実を突き詰めて考えることが、いかに重要かがわかってもらえるだろう。 だから、戦略は事実に基づいて考える必要がある。お話は参考にするにとどめておくべきだ。

アナロジー(類推)で考える

 事実を調べていっても、なかなか結論が出せないときがある。このときに有効なのが、アナロジー思考だ。これは戦略を早く作るために、きわめて有効な手法である。

 アナロジーとは、類推、他の事例を参考にして、今の事例を考えてみることをいう。

 これを行うには、他の事例をたくさん知っていなければいけないから、たくさんの知識の引き出しが必要だ。

 たとえば、対人関係を考えてみよう。

 あなたが、異動である課に配属され、課長に挨拶をすると、課長が、「君には期待している。何か気がついたことがあったら、何でも言ってきてくれ」と言ってきたとしよう。

 しかし、課の雰囲気は暗く、どうも周りの人は課長を恐れているようである。

 課長と課員が仲良く談笑している姿も、ほとんど見ることがない。

 昼飯も、課の人が連れ立っていくという雰囲気ではなく、個人個人が弁当を買ってきて、机で黙々と食べている……。 こういうときには、これまでに会った人のなかで、似たような人がいないかを思い出してみるのだ。

「そうそう、高校時代の担任が同じような感じだったな」

 その担任は、「いつでも自分の悪いところがあったら直すから、授業のやり方でもなんでも、悪いところがあったら言ってきてくれ」と事あるごとに言っていた。それを鵜呑みにした友人が、あるとき授業のやり方について注文をつけに行ったら、あとで内申書に滅茶苦茶書かれたことを思い出す。

 ひょっとして、こういうことを言う人間に限って、実は、自分のやり方に文句をつけられるのがイヤなんじゃないかと……。

 こうして、高校時代の担任から類推することができれば、課長には、決して気がついたことを報告してはならないことがわかってくる。