絶好調の時期に安心すると
ビジネスは衰退期を迎える

板東浩二(ばんどう・こうじ)/株式会社NTTぷらら代表取締役社長。1953年、徳島県生まれ。徳島大学工学部電子工学科を卒業し、77年に日本電信電話公社(現NTT)入社。NTTぷららの社長としてプロバイダー事業、映像配信事業の「ひかりTV」を成功させ、現在、会員600万人、売り上げ800億円規模の企業へと成長させた

板東 この後、電子書籍の事業を始められたんですか?

藤田 はい。業績が好調なうちにさまざまな可能性を探っていくと、電子書籍の事業が有望だと気づいたんです。「著作物の流通エンジンを作る」という部分が、「着うた」とほぼ同じだったんですね。堅牢なストアシステムをつくって、どの作品がどれだけ利用されたかを各社に毎月レポートを出し、利益を還元させていただく…この事業には「着うた」の経験と実績が活かせます。

 また、参入障壁が高いのがいい、と思いました。参入障壁が高いほど、将来、大きなシェアを獲得できるロジックが成り立ちやすいんです。出版社さんは、作家さんから預かった大切なコンテンツを実績がない企業に預けにくい。また、当社が電子書籍の事業に参入する前の2000年代前半ごろは、書籍を電子書籍にするためのコストも高かったんです。ならば当社が、堅牢で、かつコストを引き下げられる仕組みをつくれば大きなシェアを獲得できると踏みました。

 さらに大きかったのは、当社にビジョンがあったことです。音楽配信の経験があったから、出版社の方に「将来、電子書籍の流通はこんな仕組みになる」とお話ができたんですね。

板東 電子書籍が今の形で流通を始める前は、出版社がPDFで書籍を販売するなど、フォーマットもバラバラでしたからね。

藤田 そんななか、当社は「流通カロリー」を下げる提案までできたんです。フォーマットもストアシステムもバラバラでは、言うまでもなくムダが多いですよね。仮に、どこで電子書籍を買うかによって消費者が受けるサービス内容が異なるなら、それぞれが別のシステムをつくる意味があります。でも実際は、どの企業の電子書籍で読んでも、マンガ「ワンピース」は「ワンピース」です。ならば電子書籍に進出したい企業は、システムを自社で構築するのでなく、どこかに任せたほうがラクになるはずなんです。

 すると、関係する企業みんなが「WIN」になる道が見えてきます。

この連載が書籍になりました。藤田氏との対談も、彼が学生時代に4000万円貯めた話や、メディアドゥが当時業界1位だった企業を買収した話などで盛り上がっており、書籍にはその全編を収録しています。『出会いは最大のレバレッジ』(板東浩二著)

板東 なるほど…。ちょっと思ったんですが、携帯電話販売店も、着うたの事業も、それにこだわっていたら上場は難しかったんじゃないですか?

藤田 上場どころか、会社がなくなっていたかもしれません(笑)。

板東 優れた起業家は100人中100人、伸びる市場を見極めてビジネスを始めるものだと思います。常に「あつい場所」でビジネスをしているイメージがあります。結局はそれが、藤田さんの成功の源だったわけですね。そもそも学生のうちから「90年代後半は携帯電話のビジネスが伸びる」と意識された、最初の選択の的確さや、収益をあげているうちから次のフィールドを探されていることがすごいですよ。

藤田 私は「今まさに絶好調!」という時期が恐ろしいんです。たいていの企業は、ここで安心してしまって衰退期を迎えますからね。

板東 それ、人生も同じかもしれませんね(笑)。

藤田 ええ。とくにIT、メディアの世界は移り変わりが早い。消費者の行動も「i-mode」やスマートフォンの普及といった、外部要因でがらっと変わるから安心などできません。

 ただ「次に始めるべき事業」は、自分が動いて、失敗してみなければわからないんですよね。だから大変なんですが…(笑)。