日本でも拡大が期待できる理由

 こうしたフランスの調査結果から読み取れる「幸せな従業員像」は、日本も含め他国では、その歴史、社会構造、経済システム、文化価値観、労働法規等の違いにより、全く同じものにはならないはずです。とはいうものの長年、海外から客観的に日本の移り変わりを見てきた筆者には、次の5つの理由から、日本でも幸福経営の研究や導入企業が、フランスでの幸せな従業員像に近いかたちで、早い時期に広がるのではないかと思われます。

 1つは冒頭に示したように、日本と同様「学歴ベースの階層社会で、国民は新しいものや変化に対し慎重」という文化的傾向にあるフランスですら、この経営モデルが急速に広まっているからです。

 2つ目は、ここ数年日本でも、こうした動きを牽引する研究(慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授等)や産学連携の取り組み(例:みんなで幸せでい続ける経営研究会)が起きてきていることです。

 3つ目は、そもそも歴史的に日本では、90年代初期にバブルが崩壊しアメリカ型の株主重視経営が広がるまでは、従業員とその家族の幸せに配慮する経営思想が脈々と流れていたと思われるからです。

 例えば古いところでは、三井家に残る1722年(享保7年)の家法 「宗竺遺書」に、退職金制度をはじめ人を大切にする精神が記されています。また、日本資本主義の父とも言われ、経営の「道徳経済合一」を説いた渋沢栄一の関連文献にも、経営者に対し労働者の幸福への配慮を説いていると解釈できるものがあります(例:「青淵実業講和」第一章~店員の利益分配に就て)。

 4つ目は、デジタルネイティブ世代を中心に、日本人の労働観や働き方が、欧米のように個人主体の合理性重視へシフトしつつある、と各種の調査から読み取れるからです。

 例えばワークライフバランスの重視、残業の回避、より自由でフレキシブルな働き方、仕事の関係者とベッタリ深くではなくライトでカジュアルな関係で仕事したい、より合理的に仕事したい等です。こうした変化を、もはや経営側は無視できなくなっているのではないでしょうか。

 最後は、そもそも仕事では不幸でもいい、または不幸な仕事や職場に居続けたいと思う人はいないはずです。つまり、働く人たちが、幸福感をもって仕事をしたいというのは、何をもって幸福というかに違があるとしても、万国共通の願いではないかと考えるからです。