本連載を始めたので、手元の資料をひっくり返していたら、面白い切り抜きが出てきた。2002年(平成14年)10月18日付の朝日新聞である。インタビューに答えているのは私だ。
ちょうど10月9日に、プリンストン大学のダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞したあとで、私もコメントを求められることが多かった時期だが、日本株が歴史的な底を形成した時期でもあった。
自慢したいわけではないが、読者には興味深いと思うので、少し引用したい。
――今の株価は実際の企業の価値に比べ、下がりすぎ、という指摘があります。
「現実の株価がその水準に迫ると、目安となる水準は逃げ水のように逃げていく。市場の動きは、合理的ではないことを前提に判断すべきだ」
「人間は、他人と同じことをすると心理的に楽だ。今の株価なら買いだなと自分では思っても、同僚や上司、ほかの市場参加者が売り一色だと、自分も売りに回ってしまう『同調』が起こる」
――不良債権処理の悪影響への懸念が相場を悪化させている、という見方があります。
「市場が悲観的な空気に支配されている時は、何をしても悪い方に進む。合理的に考えれば、不良債権の処理は長期的に日本経済にとってプラスに働くはずだが、実際には株売り、円売りを招いた。一方、不良債権処理が進まなくても、やっぱり売られるだろう」
――株価はいつ、底入れするのでしょう。
「セリング・クライマックスが起きないと下げ止まらないかもしれない。しかし、タイムサイクルから見れば、投資家はそろそろ反騰に備えるべきだろう。『人の行く裏に道あり』だ」