『特捜投資家』を書くために生まれてきた?
加藤 その後、永瀬さんは『週刊新潮』を卒業してフリーになられ、当初はノンフィクションを書かれていたわけですが、小説を書くきっかけはなんだったんですか?
永瀬 フリーになってから、実は『ゴルゴ13』の原作を書いてたんです。全部で30本くらいかな。すると文藝春秋の編集者の方から「小説を書きませんか」と誘われて。ゴルゴの原作が書けるなら大丈夫でしょうと。たしかに、ゴルゴの執筆からはさまざまなことを学びました。経済や政治、社会を絡めた物語を作る必要があったので。そういえば、今回の『特捜投資家』に出てくるエコカーについても、『ゴルゴ13』で1997年に「ゼロ・エミッション 排ガスゼロ」という話を書いているんです。
加藤 それはすごい。どんなストーリーだったんですか?
永瀬 排ガスゼロの画期的な水素エンジンが開発されるんですが、その実用化を阻止したい自動車メーカーや石油メジャーが蠢くなかゴルゴが……という感じですね。
加藤 なるほど今読んでも十分面白そうです。そういったことを振り返ると、永瀬さんのキャリアは今回の作品に向けた伏線になっていて、いわば『特捜投資家』を書くために生まれてきたんですね(笑)。
永瀬 そう言われるとそんな気になってきました(笑)。ただ、今回の作品の執筆依頼を最初に受けたときは驚きました。加藤さんが一冊の本を持ってこられて「こういうのをやりたいんだけど」とおっしゃった。金融の最前線を描き、映画にもなった世界的ベストセラーでした。そのときは、「え、おれに経済・金融ネタの小説を書けって言うの?」と。
加藤 永瀬さんは週刊誌の事件モノから始まり、小説でもノンフィクション・ノベルを得意とされていた。つまり最近流行りの「BASED ON A TRUE STORY」みたいに、実際の事件をもとにした作品を書いてこられた。そういう道を歩んできた永瀬さんに、いま是非とも書いてもらいたいテーマとしてあの本を渡したんです。週刊誌記者として、いろんな人間をナマで見てきた永瀬さんにしか書けないと思ったわけです。磯田一郎の秘書が泣いて電話してきても書いちゃうような人ですからね(笑)。
永瀬 いやいや(笑)。そういえば磯田さん、秘書の電話じゃ埒が明かないと分かると、次は新潮社がすごくお世話になっている大ベストセラー作家を利用して圧力をかけてきましたよ。作家の名前は言えませんけど、二人は親しかったようで。
加藤 えー、そうなんですか。それは最終兵器ですね。
永瀬 出版社の急所をよく知ってるんですよ。さすがにそのときは『週刊新潮』の編集部も止まりましたからね。
加藤 止まったんですか?
永瀬 はい、3時間くらい。でも結局、記事は出ましたけど(笑)。
加藤 3時間! なんかその圧力、一瞬しか効き目のないスタミナドリンクみたいですね(笑)。