「怪物」を書きたかった

加藤 でも、ひるがえって考えると、最近って伝えるべき事柄がちゃんと伝わってないような違和感を抱きます。たとえば十数年前のライブドアや村上ファンドが関連した一連の事件の際は、ノンフィクション、フィクション問わずいろいろなことが語られていたし、メディアもガンガンやっていた。でも安倍一強体制がどんどん強くなっていくにつれ、逆に、メディアの追及する力が弱くなってるんじゃないか、と。財務省の幹部が国会でウソをついても、首相と懇意の人間に情実が働いている疑いがあっても、東芝みたいな巨大企業に「粉飾決算」があっても、なんのお咎めもなし。小説とはいえそのあたりを意識して、しっかり取材して書いていただくうち2年近くかかっちゃったんですね。

永瀬 加藤さんにお話をいただいてから、僕には普通の経済小説を書くのは無理だろう、では何を書くべきかと徹底的に考えました。その結論が「怪物」を書くことだったんです。そこでバブル期から近年に至るまで日本に現れた数多の魑魅魍魎たちを調べ、加藤さんと共に取材を重ね、色々相談もしました。その結果、圧倒的なインパクトをもつある人物にたどり着いたんです。その人物からインスピレーションを得ることで作品としての柱が立ちました。この人物はどうやってマネーの魔力に取り込まれていったんだろうと想像していくうち、ようやく書けそうだなと。やはりキャラクターが立たないと物語が進まないんです。

加藤 たしかにあの人物は凄まじいですよね。

永瀬 司法テロとまで言われた手法を編み出し、国家さえ敵に回して莫大な資産を築いたわけですから。

加藤 『特捜投資家』では、その人物に着想を得て永瀬さんが生み出した強欲なモンスターが、巨額マネーを狙った謀略を巡らすわけです。

永瀬 そこに戦いを挑むのが、本作の主人公である崖っぷちの4人組です。次回はそのあたりについてお話ししましょう。

([vol.2]につづく)