そういう意味では、今後はスピード感が重要になります。これまでの100年、地味で真面目な化学メーカーとしてやってきましたが、私はもう少しスピード感を増す必要があると思う。例えば、技術系の社員は完璧主義が強く、「100点満点でないと顧客のところに持っていけない」という感覚で、100点に少し欠けると思いながら提案した場合は、顧客の前で「これが採用されたら困るな。明日から出さなければならなくなったら生産体制はどう組めばよいか」ということばかり心配していました(笑)。なぜなら、技術系の社員は「供給責任を果たさねばならない」という意識を非常に強く持っているからです。

 そこで私は、数年前から「仕事のスピード感を増すために、完璧主義は捨てよ。80点の完成度でよいから顧客に会って怒られて来い。そうすれば、彼らが本当に求めているものが見えてくるはずだ」と激を飛ばしてきました。最近では、この辺の感覚は少しずつ変わってきたかなと感じています。

――今年から始まった中期経営計画では、20年度までに「連結売上高7500億円、営業利益650億円、経常利益900億円、ROE(自己資本比率)12%以上」の達成を掲げています。さらに、その先のありたい姿として、「売上高1兆円企業を目指す」という長期目標を掲げています。なぜ、1兆円なのですか。

 将来的に、世界の有力プレーヤーであり続けるには、規模も重要なファクターになるからです。1兆円とは目安のようなもので、これから海外のビジネスが増えていくことを考えれば、やはりそれぐらいの規模感の企業になっておきたい。しかし、規模を拡大させることを優先して、誰かに莫大な資金を借りてまで大型買収に打って出ようとは考えていません。企業は、図体が大きければそれでよいというものでもない。これからも、固有の企業文化は大切に守っていきたいし、M&Aについても相性のよさを抜きにしては考えられません。

三菱ガス化学の社名は知らなくても、誰でも一度は見たことがあるはずの脱酸素剤「エージレス」。食品の鮮度を保つためには、劣化の原因となる酸素を取り除ければよいという発想から生まれた。今日では、医薬・医療品・化粧品などにも応用される
三菱ガス化学の社名は知らなくても、誰でも一度は見たことがあるはずの脱酸素剤「エージレス」。食品の鮮度を保つためには、劣化の原因となる酸素を取り除ければよいという発想から生まれた。今日では、医薬・医療品・化粧品などにも応用される 写真提供:三菱ガス化学 特殊機能材カンパニー 脱酸素剤事業部

 当社は、09年秋のリーマンショック以降は業績の低迷が続き、数年かけて不採算事業から徹底するなど事業再構築に追われました。幸いにも、人員削減には手を付けることなく、前中期経営計画(15~17年度)の期間中に業績を右肩上がりの基調に戻せました。ようやく、攻めに転じる局面にあることから、私の役割は「社内をひっかき回す、かき混ぜ役」ということになります(笑)。

 個人的な目標としては、もっと「化学の面白さ」や「化学の存在意義」などを世の中に発信していきたい。三菱ガス化学と聞くと、どこか難しそうな印象を受けるかもしれませんが、さまざまな食品のパッケージ内に封入されている脱酸素剤「エージレス」を製造しています。41年前に、世界で初めて製品化したものです。どこかで見かけたら、ぜひ手に取って観察してみてください。