知りたいのは「ノウハウ」ではなく成功者の体験

 この3冊を読んでいて感じたもう一つの共通点は、「個人的な経験を語る場面が多い」ということです。「私は10歳のとき、母親からこんなバースデーカードをもらいました。そこには……」「僕は大学時代からアルバイトは広告関係と決めていました」「私が資格試験の勉強会で仲間から聞いた言葉です」といったような個人的な経験談が、どの本にも出てきます。

 私もときどきこうやって原稿を書く機会がありますが、とりあえず書きあげて編集者に渡したときに、ここ数年、編集者からこんな「ダメ出し」をされることが多くなりました。

 「うーん、一般論ばかりでなんかこう、心に響かないんだよなあ。もっと香山さん自身の経験やエピソードをバーンと書いてくださいよ。ほら、あるでしょう? 研修医時代に先輩からこういわれてハッとしたとか、落ち込んでいたときにエジプト旅行に出かけて自分の悩みの小ささに気づいたとか……」

 私はよく、家族や友人に「生涯低空飛行人生」といわれるのですが、いつも低いけれど一定の高度を保ったまま淡々と人生を送ってきました。山もなければ谷もない。趣味も子ども時代から変わらずマンガにプロレス、ゲームが誕生してからはそれも加わり、新しいことは何もしません。

 誰かに何か言われても、傷つくこともない代わりに「そうか!」と目からウロコが落ちたりすることもない。出産や育児も経験しておらず、80代の父親が一昨年、亡くなったことが、生まれてはじめてのドラマチックなできごと、というくらい、メリハリのない人生なのです。

 そんな経験の乏しい私に、編集者はなぜ「もっと自分の経験を書け」などというのか、これは新手のハラスメントなのか、と長年疑問だったのですが、今回、この3冊の本を読んでよくわかりました。ビジネスパーソンに対して訴求力を持つのは、「権威ある成功者の私的な体験、エピソード」のようなのです。