「録画した番組が見きれないから」
という意外な解約理由
たとえば「番組を録画しすぎて自己嫌悪に陥って解約した」という例。
WOWOWは「プライム」「ライブ」「シネマ」の3チャンネルを終日放送しており、加入したばかりの顧客の中には選択せずに「あれも見たい、これも見たい」と、とりあえずいろいろな番組を録画しておく人が少なくありません。
すると1ヵ月もしないうちにレコーダーの容量がいっぱいになります。その後は見ていない番組を消去しないと新たな録画ができなくなり「こんなにたくさん番組があっても見られない」と感じ「見られない番組に視聴料を無駄に払っている」と自己嫌悪に陥って解約するという話です。
これは、録画推奨をサービスの一環と考えていた私たちには大きな発見でした。
その後は「興味のある番組が録画できることを案内する前に、興味に合わせて番組を選択できるように案内する」が解約抑止のためのサービスに加わりました。
どんなサービスでも、企業側の想定には思い至らない部分や思い込みがあり、実際の顧客の利用には想定外の要素が関係しています。
個々の顧客の話だけではそれは分かりませんが、数十人の話を聞いていると共通の条件や感情の変化があることが分かってきます。
このやり方で初めて、顧客の属性や生活の変化、加入後の経過期間とサービス(WOWOWの場合は番組編成)利用の関係、それらがどのように顧客の気持ちに影響して解約につながるのかが、少しずつ見えてきました。
そして、解約に至る理由は複合的で、顧客は解約した理由を深く認識していないことを知りました。
解約する人の「ペルソナ」を
期間ごとに作成する
デプスインタビューによって解約の状況を分析すると、加入翌月、3ヵ月目、6ヵ月目に解約が増加する傾向が浮かび上がっていました。
なぜその時期に解約が増加するのか、それぞれの時期の顧客にどのような変化が起こり、どうしてそれが解約につながってしまうのかも、デプスインタビューで探り出していきました。
加入翌月、つまり2ヵ月目の最大の解約理由は、視聴料を支払わないでも見られる1ヵ月目(加入した月)が終わり、支払いが発生する月になったことと、「加入時に見たいと思っていた番組を見終わった」ことでした。
3ヵ月目の解約理由の多くは、「視聴料1ヵ月無料キャンペーン」の無料期間終了によるものでした。しかし、前ページで紹介したように「見たい番組が多すぎ、溜まった録画を消化できなくなって、こんなに見られないから」が意外に多く存在しました。
6ヵ月目の解約者には、「見たいと思ったジャンル(スポーツ、映画、音楽など)の番組を一通り見てしまって飽きたから」と思っている人が多いことが分かりました。
こうして見ると、「無料キャンペーン期間が終わった」以外の解約理由は、番組視聴や顧客の生活の変化と関係しています。一方で、優良顧客に共通の特徴は「WOWOWが提供するサービスと嗜好や生活スタイルがフィットしている」ことでした。
つまり、解約も継続も、WOWOWのサービスの本質である番組と番組や、顧客の生活スタイルとの関係に拠るもの。利用し始めたばかりの顧客にも、長期に利用し続けている顧客にも、商品やサービスの価値を感じてもらう以外に重要なことなどないのです。
このデプスインタビューの結果をもとに、WOWOWでは解約時期ごとの解約者のペルソナ(全体を代表する架空の人物像)を作成し、コミュニケーションポイントを決めて解約を抑止するための施策を始めたのです。
(続く)