教養人ルーベンスの実力

木村泰司(きむら・たいじ)
西洋美術史家。1966年生まれ。カリフォルニア大学バークレー校で美術史学士号を取得後、ロンドンのサザビーズ美術教養講座にて、Works of Art修了。エンターテインメントとしての西洋美術史を目指し、講演会やセミナー、執筆、メディア出演などで活躍。その軽妙な語り口で多くのファンを魅了している。『名画の読み方』『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』(ダイヤモンド社)、『人騒がせな名画たち』(マガジンハウス)ほか著書多数。

 幼少期から法律家の父親にラテン語教育を受け、外交官としても活躍した教養人ルーベンスにとって、寓意画はまさに真骨頂とも言えるジャンルでした。壮大なプロジェクトとなったこの連作にも、ルーベンスの教養が駆使された神話的寓意、宗教的寓意がふんだんに取り入れられています。

 時にアンリ4世はユピテルに、そしてマリーはユノに見立てられ、フランス王家およびマリーの権威を賛美し称えています。それぞれの神のアトリビュートである鷲と孔雀が描かれているうえ、国王夫妻が半裸で描かれていることからもそれがわかります。

【名画の読み方】ルーベンスの傑作!ルーヴル美術館の「マリー・ド・メディシスの生涯」は何がすごいのか?<br />ピーテル・パウル・ルーベンス『マリー・ド・メディシスの生涯(リヨンでの対面)』1622~25年、394×295cm、ルーヴル美術館

 ユピテルの浮気に嫉妬し泣かされたユノでしたが、マリーもまたアンリ4世の多情ぶりには苦悩しました。もちろん、当時の宮廷人たちは寓意画を「読む」教養を持ち合わせていましたので、こうしたユピテルとユノに扮して描かれていることのアイロニーの要素まで読めたことでしょう。

 拙著『名画の読み方』では、このように絵画を読み解くための知識をジャンル別に解説しました。展覧会などをより深く楽しみたい方などは、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。