小松菜が、亀戸大根、練馬大根、谷中生姜、千住葱、目黒の筍、滝野川牛蒡……などと同じく、江戸のブランド野菜だということをご存じでしょうか?

 小松菜の原種は、南ヨーロッパの地中海沿岸の産で、鎌倉時代に中国から日本に入ってきました。

 江戸初期には武蔵国葛飾郡(現:江戸川区)の小松川付近で多く栽培されたため、「葛西菜」と呼ばれるようになり、これを小松川村に住む椀屋九兵衛が品種改良したのが、後に「小松菜」と名付けられた青菜です。

 名付け親は、かの八代将軍・徳川吉宗だと言われています。

小松菜すまし汁
【材料】小松菜…1束/鶏肉…30g/餅…1個/出汁…1.5カップ(300ml)/酒…小さじ1/塩…小さじ1/3/醤油…小さじ1
【作り方】 ①鶏肉はひと口大に切り、塩と酒(分量外)で揉んで下味をつけ、10分程度置いたら、熱湯で軽く茹でておく。②小松菜は4~5cm幅に切り、さっと茹でて冷水にさらし、水気を絞る。③餅は両面に軽く焦げ目をつけて焼く。④鍋に出汁と酒と1を入れて中火にかけ、煮立ったら塩と醤油で味付けし、2と3を加え、もう一度煮立ったら火を止め、器に盛る。

 

 鷹狩りが趣味だった吉宗が、享保4年(1719年)に小松川村を訪れた際、香取神社を御膳所(休憩や食事をする場所)としました。

 小松川村は「鶴御成《つるおなり》」と呼ばれる鶴の猟場の一つで、当時、鶴の肉は鳥類の中でも最高のごちそうとされていました(ちなみに、二番人気は白鳥です)。

 食事時になり、神主の亀井和泉守が、地元で採れる青菜を入れた餅のすまし汁を吉宗に献上したところ、吉宗は青菜の味と香りをたいそう気に入り、その名を尋ねました。

 特に名前はないことを告げると、「では、小松川に因んで小松菜と名付けよ」と命じ、これ以降小松菜は将軍が命名した青菜として人気が上がり、近隣に、やがて全国に広がっていったというわけです。

 命名の地となった香取神社には、現在も「小松菜ゆかり塚」があり、小松菜の産土神が祀られています。