同じ時期に同じ境遇にあったはずの富士フイルムホールディングスの古森重隆社長は、Kodakの不振、そして破たんに至る過程で次のように述べています。

「我々はデジタルカメラの中核部品であるイメージセンサーを自社設計するなど、ものづくりにこだわってきた。米国企業はハードの製造をどんどん海外に移してしまうが、日本企業の強みは自分たちでものをコツコツつくってきたことではないか。技術やノウハウの蓄積が新しい分野に進出する際にも生きる」(「日本経済新聞」2012年1月7日)

「当社でも同じだったが、フィルム以外の事業は利益を稼ぐという意味で圧倒的に見劣りする存在だ。これは推測だが、四半期利益を重視する経営風土のなかで、フィルム以外のビジネスに投資することにためらいがつきまとったのではないか」(「日本経済新聞」2012年1月30日)

 古森社長の言葉で私が好きなものに、「企業の最終目的は、顧客によい製品、優れた価値を提供し続けることだ。明日への投資のために最低でも10%の利益率は必要だ」(「週刊東洋経済」2010年12月18日号)があります。技術重視、顧客重視することを、時おり利益軽視に考える経営者が多いなかで、古森社長はそれを否定しています。利益がなければ投資ができない。10%程度の利益がなければ顧客を満足させることはできないということです。

 さて、再建計画の途上にあるKodakですが、AppleやSamsungを特許侵害で訴えながら、同時にそれら企業への特許売却による収益確保も目論んでいます。従業員退職給付も巨額に上り、取引先のKodak離れも進んでいます。これらすべては、132年で築き上げたKodakブランドを日々劣化せしめるものです。

 仮に特許売却による収益や、負債の免除・猶予が実行できても、Kodakに残るコアの事業はプリンター事業です。同事業はHP、キヤノン、エプソンなどの有力競合メーカーも多く、現時点でKodakのシェアは世界5位に甘んじています。

 事業の選択と集中、非コア事業からの撤退、資本効率の向上や株主還元強化など、日本でも声高に叫ばれる昨今です。その一環として製造の海外移転や、海外企業への生産委託を多くのメーカーが進めているのが、この2012年です。ある意味では、それらを15年ほど前に積極果敢に行ったのがKodakだったのです。見方によれば、Kodakが実施してきたことは教科書どおりの経営とも思えます。しかし、選択したコア事業が縮小どころか急速に消滅することは、Kodakにとっても、まさかのてん末だったのでしょう。

 Kodakの経営破たんから各企業が学ぶことは多いものです。圧倒的な製品の優位性があっても、それが莫大な利益をもたらしてくれていても、その結果株主が大喜びしていても、企業はその後わずか15年で破たんすることがあるのです。

 おごれるもの、久しからず。好調なときも不調なときも、常に危機意識を持って、大局を見通す力。この大切な力を失わないために、Kodakのてん末を頭の中に留めておくことは有効な方策なのかもしれません。

 拙著『英語の決算書を読むスキル』では、2010年9月に米連邦破産法11条を適用した米DVDレンタル最大手Blockbusterを取り上げています。同社の破たんに至る過程をCF計算書の詳しい分析によって紐解いています。Kodakと異なるのは、DVDレンタルそのものは消滅していない点です。業界トップ企業がなぜ経営破たんしたのでしょうか。日本のDVDレンタル最大手、TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブが2011年7月にMBOにより上場を廃止したことに、因果関係はあるのでしょうか。どうぞご覧ください。

(第5回は5月22日公開予定です) 

 


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