健康でなければ、人生の豊かさ、楽しさは激減する。だが、健康のように見えて、恐ろしい病気への“死の行進”を続けている人が940万人もいるのだ。その原因である内臓脂肪症候群とは?

 「平均して年間11人の現職職員が亡くなり、そのうち心疾患(心筋梗塞などの心臓病)での死亡が毎年、1人か2人出ていた。しかし、2000年にメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の考えに基づいた保健指導を行なうようになり、2001年以降は心疾患での死亡者はゼロ、病気にかかる人も減少している」

 こう語るのは、兵庫県尼崎市で健康支援推進を担当する野口緑課長補佐だ。約4500人の職員を抱える尼崎市の健康保険組合は医療費の増加で破綻状態だった。

 どうしたら医療費を抑えられるか、頭を抱えていた野口さんは大阪大学の松澤佑次教授(当時。現・住友病院院長、大阪大学名誉教授)の存在を知る。

 松澤氏は1987年に内臓脂肪型肥満の危険性を指摘した“肥満の権威”で、日本肥満学会理事長。85年4月、8つの学会がメタボリックシンドロームの診断基準を決めたときの委員長でもある(その診断基準は表1参照)。

表1
表1
*日本肥満学会、日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本循環器学会、日本腎臓病学会、日本血栓止血学会、日本内科学会の8学会が日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準を2005年4月に策定

 メタボリックというのは「代謝の」という意味だ。体内でエネルギーが燃焼する以上に、食物から摂取するカロリーが大きくなると、脂肪として蓄積される。脂肪は皮下脂肪と内臓脂肪に大別されるが、問題なのは内臓脂肪である。

 内臓脂肪が多い人(肥満)で、血糖値・血圧が高く、血液中の脂肪分が多い人は、心臓病・脳卒中などの発症率が格段に高くなると、松澤氏は警鐘を鳴らしてきた。

 メタボリックシンドロームの診断基準が学会で定められる5年前に、野口さんは健康診断の結果を分析し、この4項目に問題のある人には「歩く距離を増やしなさい」とか「脂っこい食事は避けるように」などの個別指導を続けた。治療ではなく、保健指導で一定の成果を上げたわけだ。