鉄道やバスはもちろん、レンタカーやカーシェアリング、レンタサイクルなど、あらゆる移動手段をオンライン上で一括検索できるようにするなどして、マイカーに頼らずとも人の移動を便利にする「MaaS(マース)」。まだ耳慣れない言葉だが、最近は鉄道事業者が相次いで実証実験をスタートさせるなど、ホットな取り組みとなってきている。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
鉄道会社が次々に乗り出す
「MaaS(マース)」って何だ?
東急電鉄は10月31日、田園都市線たまプラーザ駅北側地区で「郊外型MaaS」の実証実験を行うと発表した。郊外住宅地を取り巻く社会変化に対応して、多様な移動の選択肢を整備し、いつでも安心して移動できるモビリティサービスの構築を目指すという。
「MaaS」というキーワードに見覚えがある人は、もしかすると、トヨタ自動車や独ダイムラー、米ゼネラルモーターズなどによる、クルマの自動運転技術や電動化、そのための新会社設立や出資・提携といった自動車関係のニュースで見かけたのではないだろうか。これまで言及されてきたMaaSは自動車分野の取り組みが中心だったので、鉄道会社にもMaaSが関係するのかと驚いた人もいるかもしれない。
MaaSとはMobility as a Serviceの頭文字をとったもので「マース」と読む。直訳すればサービスとしてのモビリティ、つまり移動がサービス化していくことを示している。このMaaSを活用した取り組みが、最近では鉄道会社から毎月のように発表されている。
9月にはJR東日本が東急電鉄、楽天と共同で、2019年から伊豆エリアを対象に観光型MaaSの実証実験を行うと発表。駅から先の交通手段を利用者がスマートフォンで検索・予約・決済できるサービスの提供を試行するという。8月には小田急電鉄が神奈川県と共同で自動運転バスとMaaSの実証実験を実施した。
MaaSは、IT業界のSaaS(Software as a Service)などで使われる「as a Service」を援用して作られた概念である。
SaaSはIT産業のビジネスモデルが「買い切り」から「月額制」に転換したことを示すキーワードで、購入したソフトウエアを自分のパソコン上で動かすのではなく、利用料を払ってインターネット経由でソフトウエアを使用するサービス形態を意味する。
MaaSも同様に、移動(モビリティ)を所有するのではなくサービスとして利用する。自動車メーカーは、自動車を自家用車として「保有」するのではなく、必要な時だけカーシェアングなどを「利用」する時代への転換に危機感を抱いている。