「住宅省エネ基準の義務化」が見送られることになった。省エネ性能の高い家は、夏に涼しくて冬は暖かい。つまり、エアコンや暖房器具の使用を大きく削減できるほか、住宅価値も維持されやすいし、住民の健康維持にも大きな貢献をする。なぜこんな「いいことずくめ」の施策を見送ったのだろうか?(さくら事務所会長 長嶋修)
レベルの低いダメ業者を擁護!?
省エネ基準義務化見送りの闇
2020年に義務化の方針だった「住宅省エネ基準の義務化」が見送られることとなり、多くの心ある業界人が落胆や怒りの声をソーシャルメディア等で発信している。日本の住宅には「省エネの義務基準」が存在しない。したがって、夏は熱を吸収し、冬は冷たさを溜め込むコンクリート打ちっぱなしで断熱材なしの「住めば地獄」のような住宅を建てることも可能だ。
パリ協定で日本は、「日本の約束草案」を提出済みだ。その中身は、2030年度に2013年度比26%減(2005年度比25.4%減)の水準とするというもの。家庭部門は2030年までに27%のCO2排出減(2013年比)としたうえで、住宅・建築分野では、2030年までにエネルギー消費量をおよそ20%削減することを前提としていた。
というのも、このところ産業・運輸の世界では消費エネルギーを減少または微増にとどめているのに比して、業務部門や家庭部門のエネルギー消費は増大し、全エネルギー消費量の30%超を占めているためだ。
住宅省エネ基準の義務化は、家庭部門のCO2削減に大きく寄与する。にもかかわらず、なぜ義務化が見送られたのか。それは「住宅への適用に関しましては慎重に考えていただきたい」とする業界団体が反対したためだ。義務化基準の省エネ住宅を提供できるのは、いまだに住宅建設業者の6割程度でしかないから、こんなものを義務化されては困る、というわけだ。しかしこれは話としておかしい。
今回、国が義務化しようとしていた省エネレベルは、1999年に制定された基準で、決してレベルが高いとはいえない。つまり今回の義務化見送りは、20年前に制定された省エネ基準にキャッチアップできない、つまり施工レベルが低くて努力をしない事業者を救済するためのものなのだ。