2019年4月に罰則つき残業規制がスタートすることもあり、「働き方改革」は喫緊の課題となっている。そんななか、プレッシャーが増しているのがプレイングマネジャー。個人目標とチーム目標を課せられるうえに、上層部からは「残業削減」を求められ、現場からは「仕事は増えてるのに…」と反発を受ける。そこで、1000社を超える企業で「残業削減」「残業ゼロ」を実現してきた小室淑恵さんに『プレイングマネジャー 「残業ゼロ」の仕事術』をまとめていただいた。本連載では、本書のなかから、プレイングマネジャーが、自分もチームも疲弊せずに成果をあげるノウハウをお伝えしていく。

「働き方改革」に抵抗するメンバーの“悲しい心理”とは?

「属人化」には微妙な心理が隠されている

 業務の「属人化」は大きな問題です(詳しくは連載第22回)。
「属人化」とは、ある業務が特定の人にしか対応できない状況のことを指しますが、特に「重要な業務」の大半が特定のメンバーに「属人化」している場合(実は、プレイングマネジャーに集中しているケースも多いのが実情です)には、メンバー同士でサポートし合う関係性を築けないために、長時間労働を解消するのはきわめて困難になるでしょう。

 また、属人化しているメンバーが急病にかかっても、誰もその業務をフォローできないという問題が発生します。あるいは、両親の介護負担が増えても、他のメンバーに仕事を任せることができないでしょう。その結果、仕事と介護の両立をするために、寝る間を惜しんで働いたり、持ち帰り残業をするなど、ムリにムリを重ねる状況に追い込まれかねないのです。マネジャーにとっては、「属人化」こそが最大のリスクだと言っても過言ではないのです。

 なんとしても解消しなければならない問題ですが、それにはかなり骨が折れるのが現実です。というのは、実は根が深い問題である場合が多いからです。「属人化」する理由のひとつは、他のメンバーがその業務を担当できるだけの資格・免許・スキルや経験が足りないことですが、もうひとつ重要な理由があると思うのです。

「属人化」することによって、チームのなかで自分の存在感を維持したいという願望が隠されている場合があるのです。裏返せば、「属人化」しなければ、自分の存在意義がおびやかされるという恐怖心をもっているということ。「属人化」には、そんな微妙な心理が背景にあることが多いのです。

 その微妙な心理が、矛盾した言動を生み出すこともあります。
 たとえば、「属人化」の進んだチームでは、「人手不足だ」という不満が鬱積しているケースが多いものです。つまり、「こんなに忙しいのに、人員増強をしない経営が悪い」というわけです。

 しかし、「属人化」の度合いが高く、その業務負担に苦しんでいるメンバーに、「では、あなたは新しい人が来たら、抱えている業務のどれを渡すのですか?」と聞くと、「この業務は私にしかできないし、あの業務も新人にはムリだよ」という回答が返ってくることがあります。だとすると、人員不足が解消されたとしても、忙しい状況は解消しません。「自己矛盾している」と言わざるをえないのではないでしょうか?