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アップルは新たな時代に入った 筆者撮影

 アップルは米国時間1月29日に2019年第1四半期決算(10〜12月)を発表しました。売上高は843億ドルで前年同期比4.5%減、純利益も199億6500万ドルと前年同期比で1億ドル減少し、減収減益となりました。

 そもそも前期の決算時に示されていたガイダンスは880〜930億ドルで、アナリストの予想の中央値である940億ドルに満たなかった状況。そのため2018年11月から12月にかけてアップルをはじめとするテクノロジー株は大幅に下落しました。アップルも株価が3割下落し、時価総額でアマゾン、マイクロソフトに追い抜かれてしまったことは記憶に新しいところです。

 さらにアップルは2019年1月2日、示していたガイダンスから大幅に売上高が減少することを伝える、いわゆる「利益警告」の書簡を投資家向けに公開。新たなガイダンスは840億ドル、前年同期比で43億ドル減と示されました。

 結果は843億ドルで、予想より3億ドル多くの売上高を計上しました。そのことから一時140ドル台まで売り込まれていたアップルの株価は時間外から急騰し、165ドル台まで値を戻しました。

●なぜiPhoneは売れなかったのか

 アップルの事業はハードウェアの製造販売。ハードウェアとサービスの売上高はハードウェア734億3500万ドルに対して、サービスが108億7500万ドルです。

 ハードウェアの中でもiPhoneは売上高519億8200万ドルを占めます。しかしiPhoneの売上高は前年同期比で92億ドル減で15%減という結果でした。

 それでも全体の売上高が37億ドル減にとどまったのは、iPhone以外の売上が非常に好調だったことを物語っています。実際、iPhone以外のMac、iPad、ウェアラブル&ホーム、サービスなどのカテゴリーの売上高は19%増加しており、iPhoneが足を引っ張ったことが鮮明となりました。

 ではiPhoneの問題点はどこにあったのでしょうか。

 1月2日の利益警告の書簡の中で、また1月29日の決算発表に関するカンファレンスコールで、iPhoneの不振について5つの要素を挙げています。今一度、ふりかえりましょう。

1. ドル高傾向が続き、途上国での販売価格の上昇が起きた

2. iPhoneのお下がりの活用や割引価格でのバッテリー交換により、買い換え周期の長期化

3. 先進国において、端末購入補助金の廃止による購買の鈍化

4. 中国市場の減速

●iPhone高級化は「すべりこみセーフ」

 中国については後述しますが、マクロ経済の傾向や途上国経済の混乱の影響については、アップルだけでなく他の業種にも影響が及ぶ大きなトレンドといえます。

 また、スマートフォンの高性能化は端末の耐用年数を長くしており、買い換えの必要性を感じるまでの時間がこれまでの2.5年から3年以上に延びています。その上、キャリアによる販売補助金の廃止や、日本のように端末と通信サービスを分離する流れもあります。これらもアップルだけの問題ではありません。

 アップルは2017年発売のiPhone Xから、999ドルというスマートフォンの中で最高の価格をつけ、2018年もiPhone XSを999ドル、iPhone XS Maxを1099ドルからとしました。

 また、エントリーモデルであるiPhone XRを749ドルとする一方、iPhone SEを廃止して、iPhone 7の販売を継続させたことで、最低価格を349ドルから449ドルへと100ドル上昇させてしまいました。高価格化は確かにネガティブに映りますが、むしろ早期に高付加価値化を進め、景気後退の前に収益を最大化することができたアップルの「すべりこみセーフ」のようなタイミングの良さも感じます。

 ティム・クックCEOはカンファレンスコールの中、価格の上昇が販売の減速に影響している点を認めています。なお現在のラインアップの中ではiPhone XRが最も販売台数が多く、次いでiPhone XS Max、iPhone XSの順に売れているとのことで、最新モデルの中では最も価格が手頃なモデルと、ハイエンドモデルに人気が集まる傾向がみられています。

 ティム・クックCEOは1月になり、いくつかの地域でiPhoneの価格を調整したとカンファレンスコールで報告しています。さらなる抜本的な改革、たとえばiPhone SEレベルの価格のiPhoneの準備などの思い切った施策に打って出るのか、注目しています。

●中国市場の急減速が鮮明になった

 iPhoneの減速とともにより大きなインパクトを与えたのが中国市場の急減速でした。2019年第1四半期の中国市場での売上高は131億6900万ドルで、前年同期比で26.7%減少となりました。

 前年比の減少幅は実に47億8700万ドル。アップルが失った売上高よりも多くなっています。なお、米州市場は5%増、欧州3.3%減、日本4.5%減、アジア太平洋地域は1.1%増。他の地域の状況から見ても、中国市場が飛び抜けて悪いことが分かります。

 アップルは中国市場について、為替の問題だけでなく中国の景気減速について指摘してきました。2018年の中国のGDPは28年ぶりの低さとなる6.6%増。政府の目標である6.5%は達成されましたが、2018年は4〜6月期6.7%増、7〜9月期6.5%増、10〜12月期6.4%増と、成長の鈍化傾向が続いています。

 ティム・クックCEOはこれまで、米中貿易戦争については楽観的な見方を示してきました。アップルはこれまでに築き上げてきたサプライチェーンと中国での製造集約の体制を維持していきたいはずで、製造地として、また欧州に次ぐ市場としても成長してきた中国を、従来通り重視したい考えが透けてみえます。

 しかし米中摩擦は5GやAI、自動運転など次世代技術の覇権争いに発展しており、すぐ収束することはなく、米国の優位が確定するまで続くでしょう。

 アップルも決算発表で米国製造業への投資や積極的な部品などの採用の成果を強調し、またインドでのiPhone製造拡大への動きを見せました。製造拠点としての中国への依存度を下げる方向に転じかねない動きを見せるかもしれません。

 マクロ経済、地政学、そして中国当局の反応によっては、米国企業のアップルは中国市場でより多くの売上高を失ったり、体制の変更によるコストを支払わなければならなくなります。アップル「脱中国」の難しさを物語る一面でもあります。

●アップルはサービス企業に急転換

 一方、アップルの2019年第2四半期(1〜3月)の売上高のガイダンスは550〜590億ドル、前年同期比5〜10%減を予想しています。iPhoneや中国市場の減速に歯止めがかからないとの見方をアップルが示しているのです。

 そうした弱い決算とガイダンスの中からも、明るい材料が見出され、株価が上昇した理由は、iPhone以外のビジネスが絶好調だったからです。

 新製品が出そろったMacは売上高8.7%増、iPadは16.9%増となり、また継続的な高成長を遂げているウェアラブル・ホーム・アクセサリ部門は33.3%増でした。また非ハードウェア部門であるサービス部門は19.1%増と、引き続き成長を続けています。

 また今回の決算で初めて四半期の売上高が100億ドルを突破し、利益率は62.8%であることがわかりました。なおハードウェア部門の利益率は33.4%であり、サービス部門の効率の高さがうかがえます。

 現状「iPhoneの会社」というイメージが強まっているアップルは、あらためてMacやiPadの存在感を強め、ウェアラブルとホーム部門を強化しながら、サービス企業へと転換を急ぐことになります。その起爆剤として用意されているのが、ティム・クックCEOが参入を明かした、オリジナルコンテンツを配信する映像エンターテインメントサービスとなるのです。


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筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

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Twitterアカウント @taromatsumura