タワーレコード、サーキット・シティ・ストアーズ、リネンズ・アンド・シングズ、ボーダーズなどの企業(訳注:いずれも経営破綻した小売店)は初期の犠牲者であり、犠牲者の数は今後さらに増加するだろう。
小売業は約50年周期でこの種の破壊的技術を経験している。150年前には、大都市の成長と鉄道網の発達のおかげで、近代的百貨店が誕生することになった。その50年後、量産型自動車が出現するとすぐに、専門小売店が軒を並べるショッピング・モールが新しく形成され始めた郊外のあちこちに建ち、都市部を基盤とする百貨店に挑むようになった。
1960~70年代になると、ウォルマート・ストアーズやKマートなどのディスカウント・チェーンが店舗数を増やし、それから間もなくサーキット・シティやホーム・デポなどの「大型カテゴリー・キラー」が各地に進出した。これらすべてによって旧式のショッピング・モールは弱体化、あるいは業態変化を余儀なくされた。
それぞれの変化の波は、それ以前の業態を絶滅させはしなかったものの、業界の様相を一変させ、消費者が業界に期待するものも大きく変えた。その変化はあまりにも大きく、それ以前の業界の慣習や消費者マインドは見る影もないほどである。
変化前の形態に頼っている小売業者は、新たな形態の小売業者に売上げを奪われるうえに、残された売上げも収益性が落ちるため、新たな形態に適応するか、さもなくば絶滅するしかない。
大半の破壊的技術と同じく、デジタル・リテイル技術も不安定な足取りでスタートを切った。インターネットを基盤とした90年代の小売業者の一群、すなわちアマゾン・ドットコム、ペッツ・ドットコム、その他ほとんどすべてのドットコム企業は、「オンライン・ショッピング」あるいは「eコマース」(電子商取引)と称するものを信奉した。
浅はかな戦略と投機的な賭け、そして経済の原則という複合要因でドットコム・バブルがはじけるまで、これらの駆け出し企業は一世を風靡した。結局、このバブル崩壊によって、eコマースを行う小売業者の数は半減し、「根拠なきから騒ぎ」から「経済の実体」へと急転換を引き起こした。
しかし今日、その経済の実体はしっかりと地に足をつけている。調査会社フォレスター・リサーチの推計によると、現在eコマースによる売上高はアメリカ一国だけで2000億ドルに近づいており、全小売業の売上高に占める割合は2006年の5%から9%に増加している。この数字はイギリスで約10%、アジア太平洋で3%、ラテンアメリカで2%となっている。