「忖度」を疑われても
仕方がない理由がある

 ただ、今回の不正調査問題が「アベノミクス賃金偽装」との批判を招いたことに関連して、政府側にいくつか落ち度があったことも否めない。

 第1に、「公表値」で見た2018年の賃金上昇率が、統計の「見直し」の影響で高く出過ぎている可能性について、厚労省は当初からもっと積極的に世間に伝えるべきだった。

 「見直し」によって2017年と2018年の間に段差が生じることは、厚労省も当然、認識していた。だからこそ厚労省は、サンプル数は少ないが当年と前年の比較に適した数値も、2018年から併せて公表することにしたのだろう。  

 これが国会でも野党がとりあげた「共通事業所ベース」あるいは「参考値」と呼ばれるものである。

 この「参考値」で見れば、2018年の賃金上昇率は「公表値」よりもかなり低かったのである。

 もちろん「参考値」にも限界はあるが、この「参考値」の方がより真実に近い、という認識が最初から世間に広まっていれば、あとから賃金偽装だと疑われる可能性は低かっただろう。

 しかし実際は、「参考値」はエコノミストなどの専門家が注目した程度であり、多くの国民は国会論戦で持ち出されるまでその存在すら知らなかった。

 メディアの報道も「公表値」で行われてきた。

 例えば、2018年8月7日付の日本経済新聞は、「厚生労働省が7日発表した6月の名目賃金は前年同月を3.6%上回った。基本給などが増え、21年5ヵ月ぶりの伸びとなった」と報じている。

 この記事の中には、「参考値」で見れば、賃金の伸び率は1%台にすぎなかったという重要な事実は、一言も触れられていない。

 厳しく言えば、メディアにも統計リテラシーを高めてもらいたい。

 しかし、やはり最大の問題は、統計を公表する側が「公表値」の問題点や「参考値」の意義を、メディアに丁寧に説明しなかったことにある。

 そもそも「参考」という位置づけ自体がミスリーディングである。前年比に関しては、むしろ「公表値」の方こそ、参考程度に位置づけておけばよかったのである。