例えば、看護師などの対人援助職を対象とした調査では、感情的不協和が不安や不眠、うつ傾向といったストレス反応や、バーンアウトにつながる可能性があることが報告されています。

 バーンアウトとはいわゆる燃え尽き症候群のことで、症状としては、(1)精神的にぐったりと疲れ果ててしまう、(2)人と関わることが嫌になってコミュニケーションをとるのが面倒になってしまう、(3)仕事上の個人的なやりがいや達成感が失われてしまったりする、などが挙げられます。さらに、感情的不協和は労働者の職務満足度を下げることや転退職しようとする意図を促すこと、また、血圧を急激に増加させることなども指摘されており、働く人々の心身にさまざまなマイナス影響を及ぼす可能性があるのです。

 実は筆者も、感情労働を研究テーマとするからには自分でも経験しておこうと、飲食店のホールで一時期アルバイトをしていたことがあります。当時働いていたのは観光名所近くの和食料理店で、国内外からの観光客でいつもにぎわっており、休日などは目の回るような忙しさでした。そこで何度か感情的不協和を経験しましたが、その多くはお客様からのクレーム状況下で起こったものでした。

 クレーム内容としては、混雑時に料理の提供までに時間がかかったことや、新規のお客様をご案内したテーブルに汚れが残っていたことなどが挙げられます。お客様には非がありませんので、店側の人間として謝罪をするわけです。

 もちろん、お客様に対する申し訳なさはありました。ですが、こちらが謝罪をしてもなお必要以上に責め立てられたりすると、あまりの多忙さに余裕がなかったのもあり、「こちらも一生懸命働いているのだから少しくらい待ってくれてもいいのに」、「料理の提供が遅れたのはホール担当の私のせいではないのに」などと内心は理不尽に思いつつ、何度も頭を下げました。

 その後も、すぐに笑顔を作って次のテーブルに向かわなければならず、まさに、感情的不協和の状態でした。要望や苦情の域を明らかに超えるような悪質なモンスタークレーマーに応対する場合は、もっと強い感情的不協和を経験するであろうことは想像に難くありません。クレーム場面以外でも、店内が忙しいタイミングでお客様にわざわざ呼び止められ何事かと思いきや、料理やサービスに関係のない世間話で、思わず笑顔が引きつってしまいそうになったこともあります。

 幸い、筆者は週に1~2回勤務する程度のアルバイトでしたし、感情的不協和の経験もそれほどありません。しかし、日常的に感情労働に従事し、何度もこういう経験をしている人たちは本当にストレスフルだと思います。