いよいよトヨタ自動車は“聖域”に手を付けるのではないか――。
そんな声が今年になって業界内で囁かれるようになった。
聖域とは、他でもない、国内の販売網のことである。つまり、年々縮小傾向にある国内市場の低迷に伴うディーラー網の再編、販売チャネルの統合だ。
周知のとおり、トヨタ系ディーラーは、地元の名士や有力者などが経営する地場系ディーラーが9割を占める。その強力な販売力は「販売のトヨタ」と言わしめるほどで、トヨタ成長の原動力となった。
現在、トヨタの販売チャネルは、メインの販売車種ごとに異なり、「ネッツ店」「トヨタ店」「トヨペット店」「カローラ店」のトヨタブランド4系列に、「レクサス店」と計5系列。ホンダはすでに「プリモ店」「クリオ店」「ベルノ店」の3系列を「ホンダカーズ」に統合、日産自動車も外見上は「ブルー」と「レッド」の2系列あるが、販売車種はすべて共通化しており、一本化されている。
縮み行く国内市場規模に合わせて、ライバル各社が次々と販売チャネルを統合しているなか、トヨタも「現在の販売チャネルを維持するのは、もはや限界にきている」(業界関係者)という声がにわかに高まっているのだ。
じつのところ、こうした指摘は以前からあった。ここにきて、再び表面化してきた理由は何か。
一つは、経営環境の激変に伴うトヨタの業績悪化。トヨタは昨年12月22日、2008年度の予想連結営業利益が前年度の過去最高だった2兆2703億円から一転、1500億円の営業赤字になると発表した。
加えて、一層の国内市場の悪化もある。昨年12月下旬に、日本自動車工業界(軽自動車を含む)は、2009年の国内新車販売台数が31年ぶりに500万台を割り込むという予測数字を発表。その予想を裏付けるかのように、1月5日、自動車業界団体がまとめた2008年の国内新車販売台数(軽自動車を含む)も、前年比5.1%減の508万2235台と、4年連続の前年割れとなった。
折しも、年末年始にかけて報道された、創業家の豊田章男副社長が社長に昇格が内定したという“新聞辞令”も噂の火元になった。「豊田家という“錦の御旗”があるのなら、ディーラー経営者らも納得してくれるのではないか」という声が業界内から聞こえてくる。
疑いの目で見れば、キリがない。今年から販売される新型「プリウス」もトヨタの全系列店で扱うことも決まっており、「統合への第一歩」という指摘もある。
果たして、ディーラーの再編は行なわれるのだろうか。