国会議員には憲法で定められた「不逮捕特権」があり、そうそう簡単に逮捕されることはない。しかし、平成は議員の疑惑が常に取り沙汰され、頻繁に逮捕者が出ていたイメージがないだろうか。事実、昭和の半分以下の期間である平成は議員が逮捕・起訴されたり、在宅起訴されたりした議員が圧倒的に多かった。昭和まで「議員の逮捕」といえば、汚職など職権に関わる事件が定番だった。しかし、平成は選挙違反や政治資金規正法違反など政治活動に関わる部分以外に、背任や詐欺、脱税、弁護士法違反と罪状はさまざま。さらに強制わいせつの現行犯逮捕に至っては世間を唖然(あぜん)とさせた。平成の議員を巡る事件を振り返ってみたい。(事件ジャーナリスト 戸田一法)
相次ぐ大物議員の逮捕許諾
1994年3月11日、衆院は26年ぶりの逮捕許諾請求を可決した。
東京地検特捜部が請求していたのは、自民党衆院議員の中村喜四郎前建設相(当時)に対するあっせん収賄容疑での逮捕許諾。同日、特捜部は埼玉県の建設業者を巡る談合事件で、業者側から公正取引委員会幹部に刑事告発を見送るよう働き掛けを依頼され、現金約1000万円を受け取ったとして逮捕した。
逮捕後、中村氏は完全黙秘。初公判では1000万円を受け取った事実を認めたうえで、建設業界全体の刷新と改革のための政治資金だったとして賄賂(わいろ)性を否定し無罪を主張。冒頭陳述では、検察官をにらみつけるしぐさも見られた。
中村氏は起訴後も当選を繰り返し、最高裁まで争ったが懲役1年6ヵ月の実刑が確定し失職した。服役後は無所属で返り咲き、衆院選14戦無敗の現職で「最強の無所属」「日本一選挙に強い男」などと呼ばれている。
95年12月には、元労相で「政界の牛若丸」の異名を取った山口敏夫衆院議員(当時)が、衆院の許諾を受けた特捜部に背任容疑で逮捕された。