フリーズ“ドライ”戦争勃発フリーズドライ食品の需要拡大を受け、食品スーパーなどで専用コーナーも目立ち始めた Photo by Takeshi Shigeishi

 昭和末期の1987年3月。首都圏限定で発売されたあるビールが、業界の歴史を変えた。「辛口」という全く新たな味や価値観を打ち出し、爆発的なヒットを記録したアサヒスーパードライだ。

 発売3年目で1億箱を突破し、アサヒビールの業界シェアは10%台から一気に約40%へ拡大。あまりの売れ行きに競合メーカーも相次いで類似商品を発売し、その過熱ぶりは「ドライ戦争」と呼ばれた。勝利を収めたアサヒはシェアトップの座を確たるものとし、その後の平成30年間の業界構図を決定付けることになる。

 そして平成末期の今、新たなドライ戦争が勃発している。ただし現代の戦場はビールではなく、フリーズ“ドライ”(FD)市場だ。

 FDは食品を凍らせ真空状態にしてから一気に食品の水分を蒸発させる乾燥方法を指す。お湯を注ぐだけで本格的な料理を手軽に作れる簡便性や常温で長期保存が可能な点、栄養価が損なわれにくい点などが特徴だ。これらが高齢者や共働き世帯に受け入れられ、即席みそ汁のFD市場規模はこの5年間で約4倍に急拡大している。

 仕掛けたのはやはり、アサヒだ。FDのパイオニアだった広島県福山市の中堅食品メーカー、天野実業を2008年に傘下に収め、15年の再編でアサヒグループ食品(アサヒ)に吸収。インスタントラーメンの具材などでFDの「BtoB」ビジネスに強い天野実業の技術力と、アサヒのマーケティング力を融合させ、「アマノフーズ」ブランドで市販向けFD商品を発売。みそ汁や丼のもとなど150種以上を展開する。