国会前半の焦点だった毎月勤労統計の「不正調査」発覚に端を発した賃金統計問題の真相究明は、「賃金偽装」への首相秘書官の関与や外部監察委員会の調査報告書のずさんさを追及する野党と政府の議論がかみ合わないまま「空回り」気味だ。統計の技術的な難しさもあって、本質が見えにくくなっている。日本の賃金と賃金統計に、いま、何が起こっているのか。また、それは「安倍一強」と呼ばれる政治権力やアベノミクスの持つ政策的矛盾とどう係わっているのか。労働経済論の専門家である石水喜夫・元京都大学教授(現大東文化大学経済研究所研究員)に解説してもらった。
賃金統計問題の「本質」
「賃金変化」を正確につかむ困難
日本の賃金統計である「毎月勤労統計調査」は、2018年に入り、極めて高い上昇率を示し、賃金統計そのものに対する疑念の声も広がっていました。
2019年になって、「500人以上規模の事業所を全数調査すべきところを一部抽出調査としていた」、「抽出調査で必要な統計的処理(復元)を行っていなかった」などの事実が明らかになりました。
2011年以前の数値提供は中止され、2012年1月から2018年10月までの賃金額も改訂されました。改訂された数値は再集計値として公表されています。
再集計値をみると、名目賃金(現金給与総額)は全般に上方への修正となりました。