2月上旬、関東有数の稲作地帯である茨城県筑西市。地元のJA北つくばによる先端農業の説明会に300人以上の農家が集まった。
農協とタッグを組んで説明会を仕掛けたのが住友商事だ。この日の“お目当て”は同社が出資するナイルワークスの農業用ドローン。離着陸や農薬の散布を完全自動で行い、同時に搭載されたカメラで稲の生育状況を監視する。
デモ飛行で、農地を浮遊する機体に、農家らの熱い視線が注がれた。60代の農家は「新しい時代が到来すると肌で感じた」と感嘆しきりだった。
ナイルワークスは、ドローンが空撮画像を解析し、農薬や肥料の散布を最適化することで、コメの生産費を75%削減することを目標にしている。
もう一つの武器が収量予測だ。収穫25日前にドローンでコメの収穫量を予想し、誤差を5%以内にすることを目指す。柳下洋・ナイルワークス社長は、「現在は誤差が10%超になってしまうこともあるが、精度は着実に高まっている。コメを扱うJA全農や商社が本気で注目し始めた」と話す。
外食や食品メーカーが契約先の農家の収穫量を前もって知ることができれば、不作の年、米価が上がる前に不足分を追加購入できるといったメリットがある。
では、ナイルワークスの技術を広める住商の狙いはといえば、「ドローンのような先端技術をパッケージにしてまとめ、“日本のスマート農業モデル”として世界へ売り込むこと」(南部智一・住商専務)にある。
デジタル農業でコメ、
枝豆を3倍で売る革命児
もっとも、スマート農業をビジネスにするのは想像以上に難しいようだ。サービス提供者が生産コストの削減に貢献しても、もともとが低収益の農家から、その設備投資の対価をどれだけ得られるかという問題が生じるからだ。
デロイトトーマツコンサルティング執行役員パートナーの羽生田慶介氏は「インドでスマート農業のソリューションを提供する会社は、サービスで生産性を高められる農家からではなく、間接的に恩恵を受ける農業トラクターのレンタル会社から対価を取っている」と話す。
生産から販売までのバリューチェーンに関わるプレーヤー間で、新技術に掛かる「投資」やそれによって得られる「利益」をどう配分するのか。この“シェアする”という発想こそが、スマート農業を普及させる上で鍵となりそうだ。