5Gスマホは
「オンリー・オン・アンドロイド」

 クアルコムの半導体といえば、「スナップドラゴン」ブランドのスマホのCPU(中央演算処理装置)を思い浮かべるかもしれない。これも、モデムチップとCPUを一つのチップに落とし込んで低コスト化を実現したことで、一気に世界での地位を高めた。

 今回のMWCで発表された5Gスマホは、中国ファーウェイを除き、全てクアルコムのモデムチップを使っている。そして、ファーウェイ向けの半導体を作る傘下のハイシリコンは、外販をしない。だから現状で最速で5Gスマホを出したければ、クアルコム一択といっていい状況なのだ。

 また、クアルコムが得意とするのは「リファレンスデザイン」を活用した営業戦略。これはクアルコムの半導体を使った、スマホの“レシピ”のようなものだ。動作検証はクアルコムのお墨付き。指定された周辺部品とクアルコムの半導体を組み合わせることで、簡単にスマホを作ることができる。

 これを活用すれば、スマホメーカーは端末の開発期間を短縮でき、その分をカメラの性能など自社の得意分野に注力できる。

 今や世界で有数のシェアを誇るようになった中国のスマホメーカーも、クアルコムのリファレンスデザインをフル活用してのし上がってきた。ある電子部品メーカーの幹部に「クアルコムのリファレンスデザインに採用されるかどうかは、天と地の差」と言わしめるほどの影響力を持つのである。

 クアルコムのブースの中央にはひっそりと、だが誇らしげに5Gスマホのリファレンスデザインが展示されていた。

 「端末メーカーではないので、厚さが9.5ミリメートルとちょっと大きいんだよね」と担当者は苦笑するが、そのまま出荷できそうな完成度まで作り込まれている。

 加えて、クアルコムのブースでは、実際に5Gで通信して動作する6社のスマホのデモを実施。そして説明員のTシャツには、痛烈なメッセージが込められていた。

 「5G ONLY ON Android(5Gはアンドロイドだけ)」

 Tシャツの肩にプリントされた文字は、米グーグルのスマホ向け基本ソフト(OS)のアンドロイドをここぞとばかりに持ち上げるもの。5Gスマホで出遅れている“宿敵”の米アップルへの当てこすりだ。

 iPhoneのCPUは自前のものを使うアップルだが、モデムチップは他社製品を採用している。そして17年まではクアルコムとも蜜月関係を築き、同社のモデムチップを愛用してきた。

 しかし、17年1月、「不当なライセンス料を請求された」としてアップルがクアルコムを提訴。それ以降、両社は決裂し、特許侵害などをめぐってお互いを提訴し合う泥沼の訴訟合戦に突入し、和解の見通しが立たない。

 この訴訟の影響もあってアップルは18年に発売されたiPhoneから、モデムチップを米インテルのものに切り替えた。4Gまでなら、それで対応できた。

 ところが、インテルの5Gモデムチップの開発が難航している。MWCの直前に米国で開催された会見で、インテルの幹部は「年内にサンプル提供するが、商用出荷は20年までできない」とスケジュールの遅れを認めてしまった。

 インテルのつまずきによってiPhoneの5G対応のスケジュールが狂ってしまったことで、アップルも修正に必死である。