パリのノートルダム大聖堂が最も愛されてきたゴシック建築であることは確かだ。火災による損壊の全容はしばらく分からないだろうが、世界の文化にとっての大惨事である。屋根を支えていた木の骨組みは13世紀の大工技術の奇跡だったが、完全に失われた。交差部の上にあった優雅な尖塔(せんとう)も焼失した。この尖塔はパリの遠景には欠かせない存在だった(ただ、尖塔は19世紀の聖堂修復時に建築家ウジェーヌ・エマニュエル・ビオレ・ル・デュクが復元したものだった)。ゴシック聖堂が燃えると知って驚いた人は多いだろう。だが最近火災のあった英グラスゴー美術大学がそうだったように、石の建造物にはかなりの可燃性物質が含まれている。偉大なゴシック聖堂というと石の細い飛梁(とびはり)が思い浮かぶが、聖堂はいつも急こう配の木の屋根に覆われている。そうした屋根はベンジャミン・フランクリンが避雷針を発明するまで時々火災に見舞われ、1836年になってもシャルトル大聖堂の屋根が焼失している(そのため、ごく初期の鉄骨トラス屋根に代わった)。
【寄稿】ノートルダム、先人に倣い慎重な修復を
火事で損壊したゴシックの大聖堂は、パリのみならずフランス全体の象徴
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