4月末までは、米国政府の要人から合意に向けて協議が進展しているという発言が続いたこともあり、協議を楽観視し、上昇基調にあった株式市場は一転急落する。6日のニューヨークダウは前営業日比66ドル安、7日は同473ドル安と続落し、2万6000ドルを割り込んだ。連休明けの日経平均株価も7日は前営業日比335円安、8日同321円安と2日続けて下落し、2万2000円を切った。
手のひらを返すような突然の関税引き上げ表明にもかかわらず、中国は7日に9、10日の協議に劉鶴副首相を予定通りワシントンへ派遣すると発表した。
現時点(5月8日午後)で協議の行方は不透明だが、この協議で合意に至れば、株価も値を戻すだろう。むしろ、合意を好感してさらに上昇する公算さえある。
ただ、合意に至らない可能性は低くない。対中強硬派のライトハイザー代表が「中国が約束を破ろうとしている」と中国を非難しただけでなく、対中融和派とされるムニューチン財務長官が「(対中協議で)大幅な後退があった。中国が協定の文言で態度を変えた」と発言している。協議が難航しているのは間違いない。
米国が重要視する、外資の企業から中国企業への技術の強制移転や中国政府の先端技術分野の企業への産業補助金削減などの問題で溝が埋まっていないようだ。
強制移転については、4月初旬まで否定してきただけに文言に入れることを渋り始めたと思われる。そして、先端技術分野での覇権を目指す中国としては、補助金削減、まして撤廃は受け入れ難い。
米中が合意に至らず、10日またはそれ以降に中国からの輸入2000億ドル分に対する関税が10%から25%に引き上げられた場合の米中経済への影響はどうなるか。
まず、現在の関税の状況について整理してみる。米国での中国からの輸入品に対する関税は500億ドル分については25%、2000億ドル分については10%である。一方、中国での米国からの輸入品については、500億ドル分に25%、600億ドル分に10%である。
中国の対米輸入額は約1200億ドル。関税がかけられていないのは残り100億ドル前後しかない。その意味で、関税分野で、中国が対抗処置を取れる余地は小さい。
米中貿易摩擦の世界経済、各国経済への影響については、IMF(国際通貨基金)が昨年10月に試算を公表している。