直腸がんはなぜ後遺症が
出る可能性があるのか?

 大腸は、小腸から続く結腸と、肛門に近い直腸に分かれます。結腸がんであれば、追加外科手術をしても後遺症が少ないので、再発防止のための手術を希望する人が多いでしょう。問題は直腸がんです。直腸の周りには、排尿・排便機能や、性機能(勃起・射精)に関わる自律神経が集まっています。

 腸管をつなぎあわせることを吻合(ふんごう)といいます。最近は手術方法の進歩で、直腸がんであっても約8割は肛門を残せるようになってきました。しかし肛門近くで腸吻合をすると、術後の頻便が問題になります。1日に6~7回の排便が起こったり、下痢便になったりします。高齢者で肛門括約筋の機能が落ちている場合には、失禁する恐れもあります。あるいは排尿障害性機能障害といった後遺症が出ることもあります。

 がんの位置や進行状況によっては、肛門まで含めてがんを取り去る必要があり、左下腹部に穴を開け、S状結腸の端と腹部の皮膚とをつないで人工肛門(ストーマ)を造設することになります。人工肛門に“パウチ”と呼ばれる袋を取り付けて便をためます。肛門を温存できる場合でも、肛門に近いところを吻合する手術の場合は、一時的に人工肛門(この場合は小腸で人工肛門をつくります)をつくり、手術部位がつながっているのを確認してから、元に戻すことになります。

 がんのステージが進んでいる場合は、悩む余地はないでしょう。たとえ後遺症が残っても、手術によってかけがえのない命を守ることができます。多少の後遺症が残っても手術後にいきいきと人生を送っていらっしゃる方は多いし、人工肛門でも第一線で活躍し続けることは可能です。

 ただ、健康で不自由のない生活を送っている人が、再発する確率の方が低いにもかかわらず、後遺症が残る可能性の高い手術を選択するのは勇気のいることです。

 粘膜下層への浸潤が1mm以上の深部浸潤がん(T1b)のリンパ節転移の可能性は前述したように12.5%、8人に1人です。逆にいえば、8人中7人はリンパ節転移がなく、再発しないということです。ただ、自分が8人のうちの1人に入るのか、7人に入るのかはわかりません。

 再発すれば、命に関わる危険も出てきます。一方で、もし手術をすれば、再発の危険性は減らせるものの、後遺症を抱えて生きていくリスクを覚悟しなければなりません。

再発の危険性12.5%と言われたら
手術を受けるか?

「浸潤距離1mm以上」については、医師の間でも議論が続いています。「もう少し基準を緩めて1.5mmにしてもよいのではないか」という意見もあります。「浸潤距離1mm以上」は、医師にとっても悩ましい微妙な問題なのです。

 医師は患者の年齢や体調などを考えて治療方針を決めますが、他に大きな問題がなければ治療ガイドライン通り手術を推奨する場合が多いでしょう。家族も、命の危険があるならと、本人に手術を勧める場合が多いそうです。

 手術を回避した場合は、定期的に検診を受け、がんの再発がないかどうか、5年間ぐらい観察していくことになります。再発の危険に脅えながら生活することは、それはそれでストレスがあります。

 人によっては、肛門温存できるにもかかわらず、あえて人工肛門を選ぶ人もいるといいます。もともと肛門括約筋の機能が落ちていたり、排便障害があって日々の仕事に差し障りがあるようなケースです。