16歳の時点で家に本が何冊あったかが、学力を決める

 僕は子どもの頃、親から「勉強しなさい」といわれたことは一度もありません。「塾に行きなさい」ともいわれませんでした。ですから、僕は自主的に勉強はしたけれど、塾に通ったことも、家庭教師についたこともありません。

 僕の両親の教育方針は、徹底的に子どもの自主性に任せるというものでした。ただ、前述したように、蝶好きな少年だった僕を日本鱗翅学会へ連れていってくれるなど、僕が興味を持っていることに対しては、力を尽くしてくれました。

 また、家には父親のコレクションとしてクラシックのレコードとたくさんの本がありました。僕は幼い頃、父に隠れて父のレコードを聴き、本を読みました。その経験が、今の僕をつくったと思っています。

 さて、僕が育った家庭環境、とくに父親の蔵書に関連しているな、と感じた面白い学術論文が発表されたので紹介したいと思います。

 2018年秋、学術誌『ソーシャル・サイエンス・リサーチ』に、本にまつわる興味深い調査結果が発表されました。オーストラリア国立大学と米ネバダ大学の研究者たちが行なった調査です。彼らは、2011年から2015年に、31の国と地域で、25~65歳の16万人を対象にして行なわれた「国際成人力調査」のデータを分析しました。

 その結果、「16歳の時点で家に紙の本が何冊あったかが、大人になってからの読み書き能力、数学の基礎知識、ITスキルの高さに比例する」ことがわかりました。そしてデータを分析した研究者たちは、「子どもの頃に自宅で紙の本に触れることで、一生ものの認知能力を高めることができる」といっています。

 調査では、16歳のときに自宅に何冊本があったか、被験者に質問し、その後、読み書き能力、数学、情報通信技術のテストを受けてもらったといいます。すると、本がほぼない家庭で育った人の場合、読み書きや数学の能力が平均よりも低かったのです。自宅に本が多くあった人ほどテストの結果は良く、自宅に本が80冊ほどあった場合、テストが平均的な点数になりました。とはいえ350冊以上になると、本の数とテスト結果が比例するという傾向は見られなくなったということでした。