昨年度の国際収支統計が発表され、経常収支が大幅な黒字であることが明らかになった。経常収支の大幅な黒字は、外貨の売りを増加させ、円高ドル安を招く要因と考えられているが、実際にはそうなっていない。その理由について考えてみよう。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
経常収支は19兆円の大幅な黒字
原因は「貿易収支」ではない?
昨年度の国際収支統計が発表され、経常収支は19兆円という大幅な黒字になった。経常収支は「日本国の家計簿」とでも呼ぶべきものであり、これが大幅黒字ということは、貿易などによって海外から受け取った外貨が海外に支払った外貨よりはるかに多いことを示している。
輸出等が輸入等より多ければ、輸出企業等が売る外貨の方が輸入企業等が買う外貨より多いので、外貨の需給が悪化して外貨安、そして円高になるはずである。しかし、そうはなっていない。
もちろん、為替レートの変動要因は多様であるから、「経常収支が黒字だから必ず円高になるはずだ」と言うつもりはない。しかし、毎年GDPの4%程度の経常収支黒字が続いている状況を考えると、従来の常識からすれば不思議である。
日米金利差が大きい時期であれば、対米証券投資が活発化するのでドル買い需要が旺盛となり、円安圧力が強まることも考えられるが、今はそうした状況でもない。
そうした中で筆者は、経常収支が黒字でも円高にならないのは「経常収支が黒字になった原因が貿易収支ではない」ためだと考えている。