一般論として危険回避にはハンドル操作よりブレーキを優先
ハンドルの時と同様に、10メートル手前で危険に気づいたと仮定します。ドライバーが危険を察知してブレーキを踏み、実際にブレーキが利き始めるまでの時間遅れは、一般に0.8秒ぐらいと言われていますから、10メートル手前で気づいても、0.8秒間はブレーキはかからず、約8.9メートル進んでしまいます。それでも障害物の1.1メートル手前から減速が始まるということになるので、多少なりとも衝突エネルギーを小さくすることができる、ということになります。
このことから、一般論として危険回避にはハンドル操作よりブレーキを優先させたほうが良いということになります。
もうひとつ、ハンドルによる回避で注意しなければいけないのは「切ったら適切に戻さなければならない」ということです。道路上で急ハンドルを切るということは、多くの場合、クルマは道路から飛び出す方向に向かいます。これを適切に軌道修正できなければ、道路から飛び出して二次被害を生じることになります。大津の事故がまさにこの状況でした。
この時、ESC(後ほど詳しく説明します)が付いていれば、冷静にハンドル操作さえすれば軌道修正は可能です。しかしESCが付いておらず、クルマが横滑りを始めてしまったら、訓練されたドライバーでも容易な作業ではありません。つまりハンドル操作による回避は「回避できる可能性はほんの少し高まる代わりに、二次被害が生じる確率が大きく高まる」ということです。
ところで、急ブレーキと言われても、タイヤがロックしてしまって(ブレーキが強く利いて回転しなくなること)ハンドル操作ができなくなるのでは? と心配される方もいるのかもしれません。でも、今はほとんどの車にABS(アンチロックブレーキシステム)がついています。ABS標準装備以前に教習所で習った方の中には、急ブレーキは良くない事と思いこみすぎている方もいますが、今はブレーキを思い切り踏んでも大丈夫なのです。