「不死鳥になってやろう!」
と決意した医師の言葉

 即座に入院となりましたが、幸いなことに手術は避けられました。

 先生は「大きさの割には良好ですから、薬で治しましょう」と説明してくれました。
 もしも、先生のアドバイスを無視してMRIを撮っていなかったら、行きの飛行機で発作を起こしていた可能性もあります。
 健康診断はやはり欠かせません。

 それから12日間に渡って24時間、4種類の薬を点滴で入れ続けました。
 詳しくはわかりませんが、脳に詰まった血の固まりを溶かす薬だったようです。
 これを続けているうちに、赤ちゃんの拳ほどもあった影が、奇跡的に問題のないレベルまで小さくなってきました。
 それを目の当たりにして、私は「これなら世界大会にギリギリ間に合うかもしれない!」と思いました。

 発覚した当初は、「もうベンチはできない!」と絶望していたのに、2週間足らずで180度変わるなんて、振り返ってみても自分に呆れます(笑)。

「世界大会に間に合うかもしれない!」と喜ぶ私に、先生は優しく首を振ってこう語りかけました。

「今回は諦めてください。だって奥村さんには、まだまだ先があるでしょ。完全に治したら、またいくらでも大会に出られますよ」

 この言葉を聞いて、私は心の底から嬉しくなりました。
 もうすぐ90歳になろうとしているのに「まだまだ先がある」と先生が言ってくださったからです。
 そう言われて私は、「よし、不死鳥になってやろう!」と決意しました。

 先生の言葉でまたやる気が蘇り、脳梗塞が発覚してから1年後、南アフリカで行われた国際大会で復帰。
 見事に金メダルを獲得しました。

 どうして脳梗塞ができたのか。
 その点について、先生は前年の飛行機移動中に通路側の席がとれず、足がつるなど、エコノミークラス症候群に近い症状が出ていたことを背景の1つとして挙げていました。
 血が固まりやすい環境に陥り、それが何かのきっかけで脳梗塞を引き起こしたのでしょう。

 先生は「これだけ大きな脳梗塞ができていたのに麻痺が起こらず、点滴のみで日常生活が問題なく送れるまでに復帰できたのも、奥村さんがずっと運動をしてきたからですよ」と言ってくださいました。
 嬉しかったですね。

 日頃の運動が、いざというときに生きてくるのです。

(次回へ続く)