本書は学部生向けの講義をまとめた入門書なので、読むうえで哲学に関する背景知識は大きく問われない。とはいえれっきとした哲学書なのは間違いなく、気軽な気持ちで読めるものでもないだろう。最初から最後まで読み通すのもいいが、「日本の読者のみなさまへ」まで読み終えたら、気になるトピックから読み始めるのもひとつの手だ。

「死」について考えるということは、「生」について考えるということでもある。「死」と向き合うことが、「生」をより充実させることを願ってやまない。(石渡 翔)

本書の要点

(1)人間はたしかに“驚くべき物体”だが、有形物という意味では機械と変わらない。肉体が死ねば、その人は消滅する。
(2)死が悪いとされるもっとも大きな理由は、今後良いことの起きる可能性が「剥奪」されてしまうからだ。
(3)不死は良いものではない。私たちが本当に求めているのは、自分が満足するまで生きることである。
(4)妥当な理由があり、必要な情報も揃っていて、自分の意思で行動しているのならば、自殺という選択肢が正当になることもある。

要約本文

◆死について
◇魂は存在しない

 死について考えるときに重要なのは、「二元論」と「物理主義」の見方を区別することだ。二元論者は人間を「身体と心の組み合わせだ」と主張する。二元論者にとって心とは魂そのもの、もしくは魂に収まるものだ。一方で物理主義者は、精神的活動としての心は否定しないものの、魂なるものは存在しないと考えている。この立場からすると、心はあくまで身体の持つ能力のひとつにすぎない。

 著者は後者の立場に立つ。たしかに人間は“驚くべき物体”であり、他の物体にはない機能をいくつも持っている。だが「人(魂)は自分の身体の死後も存在し続ける」という主張は論拠を欠いている。私たちが有形物であることは間違いなく、そういう意味では機械と根本的には変わらない。ゆえに身体が死ねば、その人も消滅するのは必然ということになる。