前科がある人は
改名が認められない場合も

 一般的に通名というと、もっぱら外国籍の人が日本国内で使用する日本名のような意味合いで使われることが多い印象だが、実際には日本人でも使える。つまり、山田太郎という人物が、長期間にわたって山田隆夫と名乗り続けていれば、その人はいつか、本当に隆夫さんになれる可能性が高いというわけだ。

 ただし、改名希望者は、通称を長年使用していたかどうかを立証する必要もある。

「家裁への申し立ての際の証拠としては、長く勤める会社の中で通称を使用していることが分かる書類、過去の郵便物や年賀状などが有効です」

 通名を長年使用していると改名が認められやすい理由について、坂口弁護士は次のように語る。

「法律上、いわば名前は個人を識別するための記号です。通名がその人を表す記号として長年にわたって機能しているのであれば、むしろ名前を実体に合わせたほうが合理的といえます。とはいえ、さすがに何度も改名を繰り返すことは、社会の混乱を招く恐れもあるため、認められる可能性は低いでしょう」

 意外に簡単にできてしまう改名だが、一方で前科がある人の場合などは事情が異なるようだ。

「前科の情報は名前と結びつけられているため、仮に長年の間、通名を使用している場合であっても、利益衡量の観点から改名は認められにくい傾向にあります」

 利益衡量とは、当事者の利益と公益を比較すること。たとえば、ある人が過去に犯した罪の情報がネットで広く出回っており、生きづらさを感じているため、名前を変えようとする。だが、その人が過去に罪を犯したという記録を残しておくことが、社会の利益とみなされる場合もあるのだ。

 このように、前科者を除けば、改名はそこまでハードルの高いことではない。もし自分の名前にコンプレックスを抱いているのであれば、改名を選択肢の1つにしておくのも手だろう。

 名前はその人を識別する記号である一方で、アイデンティティーでもあるのだ。

【プロフィール】
坂口香澄弁護士/東京・大阪・神戸・福岡に拠点を持つ「弁護士法人・響」所属。第二東京弁護士会「子どもの権利委員会」所属。刑事事件や交通事故、借金問題、労働・離婚・相続問題、消費者問題などを主に扱う。テレビや雑誌、新聞などメディア出演も多数。FM NACK5「島田秀平と坂口香澄のこんな法律知っ手相」にレギュラー出演中。