【メガトレンド5】
スケールメリットの消失

 18世紀の産業革命以来、「強いビジネス」とはすなわち「大きなビジネス」のことでした。巨大な資金によって大きな工場を建て、大量生産したものを巨額の広告費をかけて売りさばく、という暴力的なビジネスこそが常に勝者であり、その陰で資金を集められないもの、大量に生産できないもの、巨額の広告費を捻出できないものは、歴史の塵芥の中に消えていかざるを得ませんでした。

 そのような時代を長らく過ごした私たちは、スケールの追求こそがビジネスにおける成功のカギだということを刷り込まれてしまっています。しかし今日では、スケールはそのままメリットにならないどころか、むしろ競争力を削ぐ要因となりつつあります。

 この変化をドライブしている大きな要因は2つあります。

 1つ目の要因として指摘したいのが限界費用(*1)のゼロ化です。ジェレミー・リフキンは、彼の著書『限界費用ゼロ社会』において、さまざまな分野で限界費用がほぼゼロになるという現象が発生していることを指摘し、近い将来において、19世紀から連綿と続いてきた垂直統合型の巨大企業が、その巨大さゆえに有していたアドバンテージ、つまり「スケールメリットによる限界費用の低さ」がもはや成立しなくなると指摘しています。

*1 経済学における用語。生産量を一単位だけ増やした場合に増加する費用のこと。

 2つ目の要因として指摘しなければならないのがメディアと流通の変化です。20世紀の後半にインターネットが普及するまで、サービスや商品を世の中に告知するためには、新聞やテレビなどのマスメディアに頼らざるを得ませんでした。

 これらのメディアはきめ細かなターゲット設定には向いておらず、必然的に多数派となる大衆の好みそうな商品やサービスを開発し、それをテレビや新聞などのマスメディアを通じて告知し、巨大な流通機構を通じてそれを販売するというモデルに帰着せざるを得ませんでした。

 これはつまり、マーケティングの手段でしかない広告や流通の枠組みが、商品やサービスのありようを規定していたということです。その結果、メディアと流通の枠組みに乗りにくいサブスケールのサービスや商品は大きなハンディキャップを背負うことになる一方で、多数派となる大衆に向けた製品を大量に生産し、それを巨額のマーケティング費用をかけてメディアと流通に乗せて売り切るという戦略パターンを採用する企業には強烈なスケールメリットが生じました。

 ところが昨今、メディアや流通のありようは大きく変化し、サブスケールの個人事業主が、各々の関心や意図、求めている「意味」に応じて精密にコミュニケーションをとることが可能になりました。

 これを逆にいえば、大量に作った製品を大量の広告によって告知し、巨大な流通機構に乗せて売りさばくという、かつての必勝パターンであった「スケールメリット追求型のビジネス」の方こそが、メディアと流通のありように対して齟齬をきたすようになっているということです。