ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』で話題の、大人気の著作家・山口周氏。その山口氏が「アート」「美意識」に続く、新時代を生き抜くキーコンセプトをまとめたのが、『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』だ。
モノが過剰になり、正解がコモディティ化する世界では、これまで評価された「論理とサイエンス」は急速に価値を失い、「美意識とアート」が求められる。その流れはさらに加速し、今後は「問題発見」と「意味創出」の価値が増す。
社会構造の変化やテクノロジーの進化にともない、「優秀」とされる人材要件は大きく変わる。では、これから活躍できる新しい人材=ニュータイプとは? 人材のシフトを促進する6つのメガトレンドとは? 本稿では同書から一部抜粋して、特別公開する。

【山口周】「新時代の成功者」を決める<br />6つのメガトレンド

市場で評価される人材は、
社会の要請によって変わる

 どのような時代でも、その時代における「価値の高い」人材の要件は、その時代に特有の社会システムやテクノロジーによって相対的に決まります。かつて好ましいと考えられていた「オールドタイプ」の思考・行動様式が、これから活躍できる「ニュータイプ」のそれへとシフトするのを理解するためには、その前提として、どのようなテクノロジーあるいは社会の変化が発生するのかを考察する必要があります。

 ここでは、「オールドタイプ」から「ニュータイプ」へのシフトを促す、次の6つのメガトレンドについて説明したいと思います。

【メガトレンド1】飽和するモノと枯渇する意味
【メガトレンド2】問題の希少化と正解のコモディティ化
【メガトレンド3】クソ仕事の蔓延
【メガトレンド4】社会のVUCA化
【メガトレンド5】スケールメリットの消失
【メガトレンド6】寿命の伸長と事業の短命化

 今回は、6つのうち、後半の「4~6」について考えてみます(1~3についてはこちら)。

【メガトレンド4】
社会のVUCA化

 VUCAとはV=Volatile(不安定)、U=Uncertain(不確実)、C=Complex(複雑)、A=Ambiguous(曖昧)という、今日の社会を特徴付ける4つの形容詞の頭文字を合わせた言葉で、もともとはアメリカ陸軍が現在の世界情勢を説明するために用いだした用語です。これらの4つの特徴が、現在の私たちを取り囲む状況であることに反論できる人はいないでしょう。

 今日、「社会のVUCA化」はさまざまなところで議論されていますが、VUCA化が一体どのような行動・思考に関する変化を要請するのか、という点についてはあまり整理されていないように思います。

「VUCA化の進行」は、私たちがこれまで「良い」と考えてきたさまざまな能力やモノゴトの価値に大きな影響を与えることになります。ここでは代表的なポイントを3つ挙げておきましょう。

 1つ目が「経験の無価値化」です。これまで私たちは「経験豊富」という要件を無条件にポジティブに評価してきたわけですが、環境がどんどん変化していくということは、過去に蓄積した経験がどんどん無価値になっていくということを意味します。

 このような世界にあっては、過去に蓄積した経験に依存し続けようとする人は早急に人材価値を減損させる一方で、新しい環境から柔軟に学び続ける人が価値を生み出すことになります。

 2つ目が「予測の無価値化」という問題です。これまで、企業にしても個人にしても、何かを実行しようというとき、中長期的な予測をもとに計画を立てることが「良し」とされてきました。

しかし、社会がより「不安定」で「不確実」になるということは「予測の価値」がどんどん減損していくことになります。このような時代にあって、計画に時間をかけ、立てた計画を実直に実行するという行動様式は極めてリスクが大きいと言わざるを得ません。

 今後はむしろ、とりあえず試し、結果を見ながら微修正を繰り返していくという、いわば「計画的な行き当たりばったり」によって、変化する環境に対して柔軟に適応していくことが求められます。

 3つ目が「最適化の無価値化」という問題です。私たちは常に、周辺環境に対して最適化することで自分のパフォーマンスを高めようとするわけですが、ここにパラドックスがあります。

 というのも「VUCAな世界」では、環境は連続的に変化し続けているわけですから、どこかの時点での環境に高度に最適化してしまえば、それは次の瞬間には時代遅れなものになってしまうからです。つまり、私たちは「最適化という概念そのもの」の意味合いを考え直さなければいけない時期に来ている、ということです。

 このような時代になれば、ある瞬間において環境への「最適化の度合い」はどうでもよくなり、むしろ変化していく環境に対して、どれだけしなやかに適合できるかという「柔軟性の度合い」の方が重要になってきます。