1億円という金額が明らかに割安だった

 1億円で買った会社が、たった1年半で3億5000万円になりました。
 1年半でこの会社の価値が3倍強に急上昇したとは考えられません。
 会社の実態は変わっていませんし、金融市場の環境にも特段の変化は起こっていません。
 ではなぜ3倍強で売れたのでしょうか。

 投資会社の性質から、この会社に興味を示しそうな会社を数多く知っていて、そのなかでもっとも高い金額を提示しそうな相手を探し出すという芸当ができたからかもしれません。しかし、普通に考えれば1億円という金額が明らかに割安だったのです。

 逆に言えば、投資会社が売却を成立させた3億5000万円という金額が、M&A市場におけるこの会社の実質的な価値だったと考えていいと思います。

安く買った会社を何倍も高く売る
「したたかな買い手企業」

 先ほどの計算では、営業利益が4000万円の場合の株式価値は1億7000万円でした。仮に、営業利益を5000万円として計算すれば、売却価格の目安は2億5000万円になります。

 本来のM&Aのプロセスでは、この会社の個別の内容を精査し、売却価格の目安を補正していきます。たとえば、事業に関係のない余剰資産があればその時価を加算したり、未払いの残業代があれば減算したりします。
 この会社には、見るべき大きな加算価値があったからこそ、3億5000万円で売却できたのかもしれません。

 事情はどうあれ、売り急いだために、そして仲介会社にM&Aの知識がなかったために、この会社は差し引き2億5000万円の大金(収益)機会を逃したのです。

 たしかに、オーナーは心配事から解放されましたが、そこで働く従業員はどのように感じるでしょうか。一度ならず二度も自分の勤める会社が売りに出されてしまい、その都度「自分はどうなるのか、クビになるのか」とビクビクしながら働かなければならなかったでしょう。
 人が財産であるシステム開発技術者の派遣業、働く人たちが逃げ出したくなる環境で、未来は本当に明るいのでしょうか。

 こうした不幸なM&Aを未然に防ぐためにも、売り手側の最低限の知識と本当に頼れるアドバイザーが必要なのです。

※次回は、身近で頼りになる「意外な人」にM&Aを相談する際の注意点についてお伝えします(7月12日公開予定)。