7月1週目に米ニューヨークに行った。2月28日公開の本連載で、日米B級グルメの20年前との価格比較を試みたが、今回も同様の調査を行ってみた。
チャイナタウンの「大旺」はローストダックや粥でにぎわう店だ。20年前の1999年は最も安い粥が2.5ドル、湯麺が3ドル。今はそれぞれ4.75ドル(90%上昇)、7ドル(133%上昇)だ。なお、同店はクレジットカードなどキャッシュレスの支払いを一切受け付けない。入り口に小型ATMが設置してあり、現金を持っていない客はこれで引き出せといわれる。
ワシントンスクエア近くの「カフェ・レッジオ」はニューヨークで最初にカプチーノを出した老舗だ。ルネサンス期の絵画や1902年製大型エスプレッソマシンが飾られている。20年前のカプチーノは2.25ドル、チーズケーキは3.5ドルだった。現在は4ドル(78%上昇)、6ドル(71%上昇)だ。
同カフェの向かい側に「ポウムズ・フリッツ」というベルギー風ポテトフライ専門店がある。1999年の価格は、レギュラーサイズで3ドルだった。現在は6.25ドル(108%上昇)である。
行列が常にできる超人気店ではより激しい値上げが行われている。ミッドタウン3番街の「エッサ・ベーグル」のプレーンなベーグルは現在1.45ドルだ。20年前に比べて142%もの上昇である。
では日本の人気店の価格は過去20年でどう変化しただろうか?
東京・麻布十番「浪花屋総本店」のたい焼きは143円(以下、消費税抜きの価格)→167円(17%上昇)、東京・神保町「エチオピア」の野菜カリーは886円→861円(3%下落)、横浜中華街「江戸清」の豚まんは477円→463円(3%下落)、伊勢市「赤福本店」の「赤福3個セットお茶付き」は220円→269円(22%上昇)、鹿児島市「ざぼんラーメン」は729円→769円(5%上昇)である。
これらの中には行列が頻繁にできる店もある。ニューヨークなら100%以上値上げしても不思議はないのだが、日本はそうはならない。日本は米国と異なって店の家賃や店員の賃金があまり上昇しないので、さほど値上げしなくてもやっていける面もある。
また米国の経営者は、客の行列待ちは需要超過を意味していると解釈し、どこまで値上げできるかチャレンジする傾向が見られる。しかし日本でそれを行うと「あこぎな商売をしている」と消費者に嫌われる恐れがある。また日本のB級グルメ店の中には「金もうけのためにやってんじゃねえ」という気概を持つ店主も結構いる。
困ってしまうのは、前述のようにこんなにも外食価格が上昇している米国ですら、最近は主要なインフレ率が目標の2%に届いていないという点だ。消費アナリストに聞くと、新興デジタル企業の影響で既存企業がプライシングパワー(価格決定力)を持てなくなる事例が増えているため、外食のような品目があっても全体の物価上昇率は落ち着いているという。
6月の米非農業雇用者数は予想以上の強さを示したものの、インフレがそういった状態で、米中貿易戦争の不確実性は続いている。そのため、米連邦準備制度理事会(FRB)は今月末に「保険」としての0.25%の利下げを実施しそうだ。日本における2%のインフレ目標達成は米国以上に困難で、かつ日本には利下げ余地がほとんどないだけに、日本銀行にとって悩ましい状況が続くと思われる。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)