爆食

不採算受注にもう走りたくない
足元を見られる大手の葛藤

 「常盤橋」。この言葉を耳にした瞬間、百戦錬磨であるはずのスーパーゼネコン(大手)首脳たちの目に感情が表れる。ある者は目を輝かせて熱っぽく語りだし、ある者は目を泳がせて言葉数が少なくなる。

 常盤橋とは、東京駅日本橋口で開発が進む「東京駅前常盤橋プロジェクト」を指す。採算が取れないだろう類いの案件だ。三菱地所が開発し、2027年に大型ビル4棟の全面開業を予定している。

 中でもB棟は高さ390mで、「あべのハルカス」(大阪市、高さ300m)、23年3月末に竣工する虎ノ門・麻布台地区再開発のA街区・複合棟(東京都港区、325.24m)を抜いて日本で一番高いオフィスビルとなる。これを大手のどこが受注するかは業界で最大の関心事の一つになっている。

「東京駅前常盤橋プロジェクト」の建設地「東京駅前常盤橋プロジェクト」の建設地 Photo by Masami Usui

 ゼネコン業界は右肩上がりに業績が回復し、絶頂期を迎えている。11年の東日本大震災で復興特需が発生し、12年に与党へ復権した自由民主党が「国土強靭化」の大号令で公共事業を増やし、東京五輪・パラリンピックの20年開催が決まって都心の再開発も加速。業界ピラミッドの頂点に立つ大手5社は、案件をぜいたくに選別しながら大量に受注した。

 しかるにこの数年は、「採算が取れないと判断したプロジェクトはさりげなくかわしたり、いんぎん無礼に断ったりしてくる」(不動産会社幹部)のが常だった。であれば採算が取れなそうな常盤橋について「やる気はない」の一言で片付けてもよさそうなものだが、各社首脳の反応はそんなあっさりしたものではなかった。

 常盤橋プロジェクトのうち、すでに準大手ゼネコンの戸田建設が2棟、同じく準大手の三井住友建設が1棟を施工することが決まっている。「ここに大手が一社も入らなかったのは、それだけ受注金額が厳しかったということ」とゼネコン首脳。残るB棟も厳しい価格を要求されることは明らかだった。

 東京駅に面した丸の内、大手町に多くのビルを持つ「丸の内の大家」こと三菱地所は、大手デベロッパーの中でも特に経済合理性を押し出してくる会社として、ゼネコン業界で知れ渡っている。