「死」を前にした50代社長
飛島建設へ会社を託した
千葉県で建設会社を営んできた杉田正己は、50代にして病を患い「死」を覚悟することになった。社長として率いる杉田建設興業は売上高15億円、従業員60人。自分が亡き後も、事業を、社員を、守りたかった。
日本大学理工学部建築科の同級生だった岡部一郎に、後継者がいない悩みを吐露した。彼に後を頼みたかった。中堅ゼネコンである飛島建設の幹部だった岡部は、相談の内容を社内に持ち込んでみた。
2017年夏、飛島は杉田建設を買収した。情にほだされたわけではない。杉田建設は、東京・小笠原諸島で創業しており、島で建設事業を手掛けていた。国は離島振興を打ち出しており、飛島は商機を見いだしたのだ。この地は空港の計画が持ち上がったりしている。杉田建設社長となった岡部は、今は亡くなった友人の遺志を引き継いだ。
飛島は1990年代後半から2000年代前半に金融支援を受けた当時、メインバンク主導下での再編候補になっていた。そこから業績回復を果たし、今度は仕掛ける側に回った。17年には事業を補完できる別の会社も買収し、M&A(企業の合併・買収)も手段にして成長戦略を描いている。
建設業界は今、絶頂期だ。にもかかわらず身売りが多発している。M&A助言のレコフによると、17、18年共に建設業のM&Aは100件超。過去最高水準である。
不況期の身売りは経営危機に陥った企業が対象で、相手先を含めメインバンクが主導した。近年の身売りはそれとは別物だ。売る側も買う側も、自らの意思で相手を選び、決断するようになった。