「もし月に人間を送りこむことができれば…」アポロ11号は過去50年間、米国が本気で取り組めば――もちろん資金もつぎ込めば――実現できることの典型例とされてきた。アポロ宇宙計画は、連邦政府こそが大きな課題を解決できるし解決すべきだと米国民が当然のように考えていた時代の絶頂期を象徴するものだった。同計画の費用は250億ドルに上った。これは国内総生産(GDP)に対する比率からすると現在の6000億ドル(約64兆9000億円)に相当する。米国がこれほど野心的または費用の掛かるプロジェクトに取り組んだことは、その後ない。今でも米国人はリスクを取って問題を解決しているが、政府がそうすることを期待してはいない。国内で研究開発(R&D)に投じられた資金の対GDP比は、データが入手可能な最新年である2015年には2.7%だった。これは1966年と同じである。しかし当時、宇宙開発競争と冷戦のさなかにあった政府が投じたR&D費は民間企業の倍だった。現在では民間企業のR&D支出が連邦政府の3倍になっている。今ではリスクを取ることやイノベーションは、ムーンショット(月ロケット打ち上げのような壮大な構想)でなはく、ベンチャーキャピタリスト、医薬品研究所、インターネット起業家と同義ととらえられている。彼らが追求するものは、発見や名声ではなく、主として富である。