もちろん市場調達できない自社設計のチップで競争力を生むビジネスが、完全になくなったわけではない。近年、中国のドローンメーカーDJIが開発する製品は、フライトコントローラー(ドローンの姿勢制御を行うコンピュータ)部分の半導体を中心に自社設計のものが増えている。特にハイエンド品を作る上ではそうした独自機能(ただし、コストパフォーマンスは劣る)の開発が、特に汎用チップでカバーしづらい新しい製品カテゴリでは武器になる。DJIも通信や計算を司る中心部のチップは、パワーがありムーアの法則で年々性能向上が期待できる汎用チップを使い、汎用チップが存在しないフライトコントローラーで自社のチップを開発している。

China Information Technology Expoの様子左:幕張メッセに匹敵するサイズの「深セン会展中心」をまるまる使って行われるCITE(China Information Technology Expo)/右:会場には大メーカーに混ざって、基板そのものをBtoB販売する中小設計会社も並ぶ

 市場で調達できる汎用チップの性能向上は、自社で設計する部分を少なくしてソフトウェアの差別化で多くの製品を発売する、多品種小ロット製造の傾向を強くする。そうした深セン企業の製品作りの事例は、この連載で何度も紹介している。

 たとえば第4回「愛すべきパチモノから世界最先端まで、深セン電気街ガイド」では、750円と3000円のカメラの分解事例を比較し、安いものが高いものの型落ちや劣化コピーではなく、目的とする値段にあわせて意思を持って部品選定と製品設計を行っている様子が窺えた。

 さらに第19回「深センが『製造業の街』を超え研究開発でも突出し始めた最新事情」で紹介した、中間成果物のB2B販売などで成り立つ深センの開発システムは、このムーアの法則により、製品の寿命が短くならざるをえない(つまり、高速で新製品を開発することが、より重要になる)時代を背景にしている。

 ファミコンミニやスーファミミニのように、ムーアの法則を背景にした、汎用チップを使った高速な製品開発に取り組んでいる例は日本企業でもある。今後はそういうケースがますます増えてくるだろう。