もっと自分を信じていい

大人たちが目指してきた幸福の形では、<br />もう幸福になれないと若者たちは気づいている<br />【本田直之×ジョン・キム】(後編)

本田 実際、日本の若い人たちの幸福に対する考え方は、北欧の人たちのものと似ていますね。進化しているんですよ、若い人たちは。それに気づいていないオジサンたちが、「あいつらは欲がない」「もっと夢を持たなきゃダメだ」なんて言ってる。こっちのほうが、よほど危ない。本当にそれで幸せになれているか、むしろ大人は自分に問い直さないといけない。

キム だから、たまに本田さんのような進化した大人がいると、若者から共感を持たれるんですよ。本田さんの著書『ノマドライフ』にしても、40代以上で実践しようと思っている人は限られる気がします。でも、20歳前後の若者から見れば、これはひとつのライフスタイルとして自然に読める。違和感なく普通に受け止められる。異質なものに対する寛容性というか、受け入れる受容力、包容力、それが若者にはかなりあるんじゃないかと思います。

本田 そうですね。日本の若い人、いろんなふうに言われていますけど、僕はとても優秀だと思いますよ。だから、まわりに惑わされないで、自分の思いで自信を持って生きていってほしいと思う。

キム 自分を信じていい、ということですね。僕も、もっと自分を信じろ、と言いたいです。どんな人も、若いうちはいろんな可能性がある。ただ、その一方で不安もある。そうやって思い悩んだときにこそ、もっともっと自分を信じろ、と。それは『媚びない人生』で真っ先に発したメッセージでした。そういうアドバイスしか、大人はできない気がするから。それ以上のアドバイスはすべきではない、とも思う。

 僕のまわりの限定的な反応ではあるんですが、本を読んだことで自分と向き合うことの必要性や、自分を決めつけてはいけないんだという気づきがあった、という声をたくさんもらいました。もっと自分の可能性について、自分自身がケアをすべきだと思った、という声も。そういう読者の反響は、ものすごくうれしいですね。

『媚びない人生』を通じて、何が幸せなのか、どう生きるべきなのか、もっと日本人の間で議論が深まっていってくれたらうれしい。若者同士で、あるいは大人と若者の間で。もっといえば、大人同士で。自分、人生、社会、未来などについて、どう向き合うか、もっともっと語り合われることで、日本の幸せは増えていく気がする。

本田 基本的には人それぞれですからね。どの世代でも、不幸な人も幸福な人もいる。幸福の定義もそれぞれで違う。だから、自分の思いを大事にすることが必要ですよね。10年後、20年後に、やっぱり正しかったな、ということになると思うから。

 実際、20年前は会社を途中で辞めたり、会社を替わったりすることは、ネガティブなイメージだったわけです。“新人類”なんて言われて。ところが、大きな会社も倒れ始めたりするようになって。むしろ、高度なポータブルスキルを持つことはポジティブになった。それを持たなかった人が苦労するようになった。進化した若者たちが正しかったわけです。

 草食系や欲のなさというのは、若い人が勝手になったんじゃないと僕は思っています。生きていく中で「こっちのほうがいいんだろうな」と自然にそうなった。誰かが言ったわけではなくて、それは本能なんです。何かを感じ取ったということです。