「安価なコストで拠点が手に入った」と
評価した中堅ゼネコン

 そんなとき、仙台に拠点を置く中堅ゼネコンが手を挙げてくれました。その中堅ゼネコンは、たまたま北陸地方の拠点強化を検討していたところでした。

 本当は、駅前の中心部に拠点が欲しかったようですが、まずはその県内に拠点を持つことを最優先したようです。公共工事は、その地域に拠点を持っていないと入札できない案件があるからです。公共工事に限らず、地元企業を優遇するケースもあると聞きます。そんなときにちょうど売り手企業と巡り合い、売却が成立したのです。

 交渉の末、株式の対価は1円に設定しました。その代わり、借金1億円をすべて引き継いでもらい、従業員の雇用も守られる形でのクロージングとなりました。田舎の中の田舎で細々と営業する小さな工務店でも、その時々のニーズとマッチすれば、小さくても売れることが証明されたケースです。

 このケースは建設業界ですが、さまざまな業種で拠点を求めている企業はあると思います。 

「地の利がない」 「こんなど田舎で」 「市内からも交通の便が悪いところにある会社なんて」

 マイナスだと思っていたことが、むしろ安価なコストで拠点が手に入るということが大きな価値になったのです。

 ちなみに、中堅ゼネコンは、拠点のほかに土木施工管理技士の資格も狙いでした。一級建築士同様、大型の現場には必ず土木施工管理技士を常駐させなければならないルールがあります。その人材がいないため、入札をあきらめるゼネコンもいると聞きます。この中堅ゼネコンも、土木施工管理技士の資格保有者を確保することは、大きな課題になっていたのです。

 その意味では、借金1億円は大型現場を受注するための必要コストと受け取ってもらえたのでしょう。有資格者がいないために大型の現場が受注できない状態が続いているのであれば、そうした判断を下すケースもないわけではないのです。

※次回は、債務超過に陥ったのに売れたケースをお伝えします(7月30日公開予定)。