ロバート・マスクッチさんと妻クレアさんは昨年8月、30年間所有したニュージャージー州グレンリッジの自宅を約84万ドル(約9000万円)で売却した。手続きが完了し、売却益が銀行口座に着金した約1時間後、夫妻の弁護士は1通の電子メールを受け取った。ロバートさんを装って他の口座に資金を移動させるよう指示する内容だった。弁護士はロバートさんに電話して詐欺に気づいたが、夫妻の受難はここで終わらなかった。約3週間後、同州の地銀ジブラルタル銀行から住宅ローンの支払いが遅れているとの通知が来た。夫妻は住宅を売却した直後にローンを完済したと思っていたが、同行に支払われたはずの資金が消えていたのだ。米国では不動産専門家、弁護士、権原会社など不動産売買の関係者を狙ったサイバー犯罪が増加の一途をたどっている。多くの場合、ハッカーは電子メールアカウントに不正侵入し、関連のやりとりを読んでから偽の文書を作り上げ、多額の資金を詐取する。サイバーセキュリティー専門家によれば、詐欺を早急に発見できない場合は資金の回収が困難または不可能になり得る。