佐宗 「地上」がニガテなそういう方たちが、現実世界で生計を立てられるようにするには、どうすればいいですか?
佐山 とりあえず人の言うことを聞くこと。それはすごく大事です(笑)。あとは、あまり選り好みしないことです。「高みを目指して梯子を上っていこう!」みたいなことを考えると、持続が難しい。
佐宗 画期的なアドバイスだなぁ(笑)。
佐山 「人の言うことを聞かない」が研究者のデフォルトですからね。「どこにニーズがあるか」なんてことを考えていては研究はできませんから、「言うことを聞かない」のが正解なんです。しかし、「地上」の世界では、「人の言うことを聞かない」のは得策ではない。その真理をまず知るべきです。「人の言うことを聞いて、要求されたことを満たすとお金が手に入る」――ビジネスパーソンにとっては当たり前すぎることかもしれませんが、研究者たちは、そういう発想がゼロなんです。私はそれを知るのにすごい苦労をしました。就職して授業をやって書類を書く――「なんて低レベルなことをやっているんだ!」と思うでしょうが、本気で「自分のやりたいこと」にフォーカスしたいなら、やっぱりそれをやらないと給料がもらえないということを知るべきですね。
個人の創造性が
「ネットワーク」に吸い取られていく?
佐宗 ちょっと質問を変えたいと思います。個人が自分自身の妄想をベースにして新しいものを考えていくことと、組織やチーム環境のなかで新しいもの生んでいくこと、その両者の関係をどのように位置づけされていますか?
佐山 「独創」か「共創」か、というお話ですね。組織のなかのメンバー同士の関係性がクリエイティビティを手助けすることはあると思います。ただし、「共創」でなければならないとも思っていません。たとえば、1人の人間が部屋にこもって考えているにしても、その人がいろんなことを知っていれば、頭のなかでそうした相互作用を生み出すことは可能でしょう。そういう意味で、違った経験、違ったアイデアを脳みその中に培っておいて、そのアイデアにダンスを踊らせることが大事だと思います。そして、ここのプロセスは1人の人間がやるべきだと強く思いますね。
BIOTOPE代表。戦略デザイナー。京都造形芸術大学創造学習センター客員教授 大学院大学至善館准教授東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科修了。P&G、ソニーなどを経て、共創型イノベーションファーム・BIOTOPEを起業。著書にベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)など。
いまは、SNSなどを使って、アイデアとか妄想とかの段階からなんでも「つなげよう」という動きがあります。フェイスブックでもツイッターでも、オープンに横につなげていって、お互いのラフなアイデアを見えるようにしてしまおうとする風潮がある。
私はその動き自体は否定しませんが、忘れてはいけないのは、そうすることで一番大事なアイデアがSNSの会社に取られていくという可能性です。人間の根底にある「妄想」段階の複雑な情報処理が、フェイスブックなどに吸い取られていく。人間の考えていることをどんどん吸い上げるというのが彼らのビジネスモデルなんです。
今後、こうした個人の「妄想」の領域にまで企業の魔の手が伸びてくるようになるのは、よろしくないなと以前から思っています。そこには防波堤があってしかるべき。プライバシーですよ。
佐宗 それはとても共感する視点です。「自分の中の大事な部分、自分自身が死守するべきエリアがある」という感覚は、僕も最近強く感じるようになりました。それが企業のビジネスモデルの中に取り込まれてしまうのはどうなんだろうという問題意識ですね。
佐山 「こっちの情報が取られる」ということは、「向こうの情報が入ってくる」ということと同義なので、深層意識まで他人にハックされているような状況はよくないなと。
でも、すでに実社会はそれに近いことになっていますけどね。「自分の頭で考えたこと」なんて実はほとんどなくて、「どこかで見たこと・聞いたこと」「誰かが言ったこと」が、気づかないうちにどんどん自分の頭の中に侵入している。映画『マトリックス』の世界が現実になっているのではないかと危惧しています。